文学部国文学科の学生13人が11月8日、滋賀県大津市の和菓子メーカー「叶匠壽庵」の本社がある「寿長生(すない)の郷」という里山を訪れ、「国文学マーケティングプロジェクト」の授業の一環として、研修に参加しました。今回は施設の見学にとどまらず、「研修後に叶匠壽庵の企業案内を学生の視点で作成せよ」というミッションが課せられました。学生たちは、ミッション達成に向け、普段の国文学科の学習の知識を生かしながら、文学が企業経営や社員の意識にどう反映されているかなどを学びました。
寿長生の郷の長屋門前で
「和菓子のソニー」の異名も。古典文学とのかかわり。商品開発に生かし
叶匠壽庵の代表銘菓
叶匠壽庵は、紫式部が、『源氏物語』の構想を練ったと伝わる石山寺(いしやまでら)近くにあり、古典文学との関連を意識し文学的感性を企業経営に取り入れています。例えば、「万葉集」に詠まれた和歌や風景から着想して商品の名称や包装紙、広報誌のデザインなどを製作。
その経営理念には、和の精神と自然への敬意、そして常に新しい挑戦を恐れない革新性が息づいています。社員の方の話によると、お菓子の個包装を始めたのは 叶匠壽庵が初めてといい、「和菓子のソニー」とも称されるほどで、伝統文化の継承と創造的発展を両立させている点が大きな特徴となってます。
深澤晶久教授が指導する国文学マーケティングプロジェクトは、日本文学とのかかわりの深い企業を学生が実際に訪問調査することで、国文学を学ぶ学生ならでは視点で企業を見つめてもらうことを目的としており、今回で6回目となります。
「若気の至りを大切にする」という企業風土。社員のアイデアの商品も
陶芸の体験
訪問した寿長生の郷は、広大な敷地に、和菓子を製造する本社工場、販売所、茶室、レストラン、農園などが配置された叶匠壽庵の拠点。ここで、社員の方に話を聞きながら施設を見学することで、様々な体験や学びがありました。
特に、自然豊かな敷地の中で茶道や陶芸の体験を通し、ものづくりの原点に触れることができたのは貴重な体験でした。茶道体験では「焦らず、心を静めること」の大切さを実感し、陶芸では土と向き合う中で、素材への敬意と忍耐の精神を学びました。また、敷地内で毎年開催される地域行事「あも祭り」にも参加し、地域住民と企業との温かな結びつきを体感しました。さらに、叶匠寿庵の人気菓子である「あも」の出来立ても振る舞われ、里山限定の味を楽しむことができました。
社員の説明に耳を傾ける学生たち
研修の時間で4人の社員の方が貴重な話をしてくださいました。叶匠寿庵では、一年に一回新しいお菓子のアイデアを社員から募集し、実際に商品になっており、社員の意見を大切にしていると感じました。印象深かったのは「若気の至りを大切にする」という企業風土。若い社員が失敗を恐れず挑戦する姿勢を評価し、「知らない」「できない」で終わらせず、行動の中から学びを得ることを重視していました。そこには、社員一人ひとりの成長を促す温かい眼差しがあり、挑戦こそが未来を切り拓くという信念が感じられました。
学生からは「茶道や陶芸の体験が特に印象深かった」「和菓子と文学の深い関わりを実感した」「社員同士が家族のようにあいさつを交わし、お互いを尊重する精神を感じた」との感想が多く寄せられました。
<学生記者メモ> 「企業の柔軟さと温かさが伝わりました」
学生記者の三友さん
今回の研修は、単なる企業見学にとどまらず、国文学の学びが社会の中でどのように生かされうるのかを実感する貴重な機会となりました。伝統と革新の調和を体現する叶匠壽庵の姿勢は、学生たちにとって、自らの将来を考えるうえでも大きな示唆を与えるものでした。私は今回の研修を通して、国文学の学びが企業活動と結びつく現場を実際に見ることができ、大きな刺激を受けました。特に、万葉集や源氏物語といった古典文学が、商品名や包装、広報へと具体的に生かされている点は、文学が社会の中でどう存在しているのかを実感する貴重な体験となりました。また、社員の方々が「若気の至り」を尊重し、挑戦を奨励する姿勢からは、企業の柔軟さと温かさが伝わり、自分自身も失敗を恐れず前きに挑戦していきたいと感じました。学びの意義を再確認できた研修でした。(国文学科3年、三友恵美)









