山本 浩貴 (文学部美学美術史学科准教授)
(欧米と東アジアを中心とする現代美術史。特に社会・政治的な芸術実践について。)
『移民・難民・アート—越境する想像力』
川上幸之介・髙谷幸 編
出版社:ヘウレーカ(2026年2月)
移民・難民の経験とアイデンティティを アートはどう表現してきたのか
移民や難民をめぐる問題は、制度や政策の課題にとどまらず、私たちが生きる社会の前提や価値観そのものを問い返す。本書は、アートがこの問いにいかに応答しうるのかを、多様な論考と対話を通して探る。
第Ⅰ部「アートの実践と倫理」では、アートが世界に介入することの意味を問い、表現と倫理、実践と責任はいかに交差するのかを検討する。当事者との協働を通じて制度の外部に連帯を築き、不可視化された声を可視化してきた各地のコレクティブやプロジェクトの紹介、美術館という制度の暴力性への批判、移民に依存する社会構造の検証、政治的実践としての表現などの論考を通じ、アートは単なる鑑賞対象を超え、生や倫理に触れる営みとなることを明らかにする。
第Ⅱ部「周縁からの美術史」は、移民や難民がいかに表象され、あるいは不可視化されてきたのかを、美術史の視点から問い直す。近年のトランスナショナルな視座やディアスポラ研究の潮流を踏まえつつ、19世紀フランスから現代日本までを射程に、帝国主義、亡命、周縁的実践などを扱う諸論考が、美術史の枠組みそのものの再検討を試みる。そこでは、「異質」が芸術実践にもたらす緊張と創造性、そして歴史から消去されてきた表象の力が再発見されていく。
第Ⅲ部「移民・難民をめぐる感性の政治」では、制度的なカテゴリーの手前、あるいはそこからこぼれ落ちる身体の記憶や感情、経験に焦点を当てる。映像や語り、哲学的思考、制度批判的美学、さらにはAIをめぐる実践までを視野に入れながら、移動の時代において、移民・難民の声なき声がいかに芸術を通じて立ち上がるのかを探究する。
■著者より
私の章は「トランスナショナル・アート・ヒストリー」という美術史の新しいかたちを探る試みです。これまでは「日本」や「アメリカ」といった国民国家を基盤にした美術史のかたちが一般的でした。そのため、複数の国家にルーツをもつアーティストは、しばしば美術史のなかで不可視化されてきました。この章では、国境をまたいで移動する(した)アーティストの歴史を記述するための方法論について考えました。
■目次
なぜ移民・難民とアートなのか (川上幸之介)
移動する人々はいかに「国民」と区別され、制限を受けてきたか(髙谷 幸)
第Ⅰ部 アートの実践と倫理
01 文化を接木する——その媒介としてのオルタナティブ・スペース(江上賢一郎)
02 移民・難民とミュージアム(小森真樹)
03 いかにしてアートでものごとを行うか——タニア・ブルゲラによる移民・難民関連プロジェクト
04 テレサ・マルゴレスと「カーラ」の生と死(藤本流位)
第Ⅱ部 周縁の美術史 05
05 あなたのマイノリティとしての経験——記録されなかった、ある在日朝鮮人美術家の話(金 智英)
06 「異国」の人々へのまなざしとその表象をめぐって(請田義人)
07 時代からの逃走——第一次世界大戦下の移民たちによるダダの思想とアナーキー (森 元斎)
08 トランスナショナル・アート・ヒストリー —— 他なる語りのために(山本浩貴)
第Ⅲ部 移民・難民をめぐる感性の政治
09 クィアな日系アメリカ人の歴史を書く——TTタケモトの実験映画(菅野優香)
10 ジャック・ランシエールにおける移民の(脱)規定 (鈴木 亘)
11 移民をめぐる「美学/政治」とアート(石田圭子)
12 二一世紀のメカニカルタークとその彼方へ——アルゴリズム・移民・ケアをめぐる芸術の政治学 (清水知子)








