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公衆衛生学研究室 -児童虐待に関する研究-

<指導教員>佐々木 渓円
<発表場所>第72回日本小児保健協会学術集会(石川県立音楽堂)

厚生労働省(現こども家庭庁)は、しつけと虐待の定義を示し、両者は明確に異なると指摘している。しかし、実際に育児をする母親は両者の境界が曖昧であり、育児に不安を抱えていることが先行研究で指摘されている。既報では、児童虐待防止対策のためには、母親の育児に関する肯定的な支援や適切な情報提供が必要であることを示している。これらの研究に基づき、国は児童虐待防止対策を重点課題と位置づけ、市町村は母親の支援を図ってきた。しかし、我が国の児童虐待相談対応件数は年々増加しており、毎年過去最多を更新している。従って、母親が求めている支援と現在の支援制度には、これまでに明らかになっていない何らかの隔たりがあることが予想される。また、支援の広報活動や知識の提供が不十分であることも関係していると考える。

以上の問題点を明らかにしたいと考えて、卒業論文を履修した。研究方法としては、インターネット調査会社の登録パネルを対象として、育児における悩みが児童虐待に至る要因や望まれる支援を明らかにする調査を企画した。この研究を卒業論文だけでなく学会にて発表することで、本学のゼミナール活動の学術的な活性化だけでなく、我が国の母子保健政策や健康水準にも寄与すると考えている。

News

2024年度

【発表日時】
上記のように、2月24日に学術集会の演題登録を行いった。演題募集期間と学会開催日時は年度が異なりますので、実際の発表は6月になる。

【発表場所・形式】
第72回日本小児保健協会学術集会にした。論文あるいは学会発表とし、本活動は学生の卒論として、本格的な調査研究を行った。学生が準備を進めるために時間を要したので、発表場所と形式は今年度中の発表手続きが可能な学会発表とした。

なお、発表時の筆頭演者は学生にする予定でしたが、就職先等の関係で教員が担当した。

【演題】
幼児の母親の虐待に対する認識と関連因子

【要旨】

・目的
我が国では民法に規定されていた親権者による懲戒権が削除され、子の人格尊重および体罰等の禁止が明記された。この背景には、懲戒権が児童虐待の正当化に用いられてきた経緯がある。

また、虐待行為の適切な共通認識が一般市民において得られていないことが、早期発見の障壁になることが指摘されている。そこで本研究では、幼児の母親を対象として、虐待の認識と関連する因子について分析した。

・方法
2024年に、インターネット調査会社が有する一般パネルに対する横断調査を行った。対象は、3歳以上6歳未満の幼児の母親228人とした。被虐待児の年齢および性別を母親の児と同一に設定したビネット調査により、身体的虐待(PS)、ネグレクト(N)、心理的虐待(PC)の認識を把握した。回答は5段階のリッカートスケールで求め、虐待や放任だと「とても思う」と回答した認識群とその他の非認識群に区分した。

各ビネットにおける認識群の割合を虐待認識率とし、McNemar検定(Bonferroni補正)で評価した。各ビネットの虐待認識を目的変数(対照:非認識群)、母子の基本特性および母親による懲戒権廃止の認知を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析により、調整オッズ比と95%信頼区間を算出した。

・結果
「外傷を視認できる」および「外傷の治療を要する」PSと比較して、「外傷を視認できない」PSの虐待認識率は低値であり、身体的外傷の程度が虐待の認識を左右することが示唆された。

「外傷を視認できない」状況では、男児と比較して女児に対する虐待の認識が高かった(調整オッズ比[95%信頼区間]=2.14[1.21-3.79])。「外傷の治療を要する」状況では、母親に喫煙歴がないことが虐待認識と正の関連を示した(3.23[1.42-7.33])。Nでは「ギャンブルによる散財で給食費が払えない」状況は、40歳代(2.24[1.22-4.11])および就労していない(2.70[1.16-6.29])母親の虐待認識が高かった。PCでは「同胞と比較して叱責」および「罰として玩具を廃棄」することの虐待認識は、懲戒権廃止の認知と正の関連を示した(2.10[1.09-4.04];1.86[1.03-3.34])。「児からの話しかけを無視」することの虐待認識は、女児(2.41[1.25-4.64])と喫煙歴がないこと(2.43[1.19-4.99])が正の関連を示した。以上の結果から、児童虐待防止対策にあたっては、虐待行為によって母子の特性との関連が異なることを考慮する必要性が示された。

【学術活動の社会的成果】
本活動は、学生が社会問題について自ら課題を発見し、調査計画を立案して実施しました。活動発表の場は、この領域の学会としました。調査により明らかになった知見は、児童虐待防止対策に新しい知見を提供することになります。

特に、幼児の人権に対する母親の意識が、男児と女児で異なること、虐待行為の内容によってリスクになる因子が異なることは、母子保健に従事する実務者に対して重要な知見になります。我が国では、児童虐待の相談対応件数が毎年過去最高を更新しています。本調査で得られた知見を学会で発表することは、我が国の喫緊の健康課題に対して本学が社会的に求められる役割に応えるものと考えます。担当学生の活動は、本予算の「学術的」という名称に値する結果を得られたものと考えます。

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