福島県相馬市で講演会を開催 「文化翻訳」の実践と今後の展開を発信(3/25)
文学部美学美術史学科の下山肇教授は3月25日、福島県相馬市の相馬商工会議所で講演を行い、文化を現代に伝えるための新たな手法の「文化翻訳」について、その可能性を訴えました。東日本大震災の被災地支援の一環として実施するアートとデジタル技術を活用したアートワークショップへの理解を深め、地元の賛同者を広げることを目的に開催されたもので、地域住民や関係者が多数参加しました。
大勢の人が詰めかけた講演会
「文化をどう届けるか」——アートやデジタル技術を用いて現代の感覚に置き換え
「文化翻訳」について来場者に説明する下山教授
講演会は、「中村城跡を未来へつなぐ—アートによる文化翻訳で拓く国指定文化財への道—」で、「文化をどう伝えるかを考える」というテーマで行われ、下山教授が学生とともに取り組んできた「文化翻訳」という手法について説明がありました。
文化翻訳とは、文化財や歴史資料をそのまま提示するのではなく、アートやデジタル技術を用いて現代の感覚に置き換え、「伝わる形」に変換することで、新たな関わりを生み出すというものです。下山教授は、「文化はそのまま置いておくだけでは届かない」としたうえで、「どうやって今の人たちに伝えるかが重要になる」と語り、表現を通じて文化をひらいていく必要性を強調しました。
学生とともに展開してきたワークショップの実践
こうした考え方のもと、下山教授は学生と共に行っているのが、AR(拡張現実)を使ったアートによるワークショップです。これは、地域の歴史や文化を題材に作品を制作し、それをデジタル技術によって現実空間に重ねて体験できるようにする取り組みで、最初に実施したのが福島県飯舘村での活動でした。学生が主体となって企画・運営を行い、地域の歴史や文化を題材に子どもたちと作品を制作。完成した作品はデジタル技術と組み合わせることで、スマホ端末などを通して実際の景色の中に重ね合わせられました。
2025年度は、福島県相馬市の歴史的文化遺産である「中村城」をテーマにしたワークショップを実施し、学生が開発・デザインしたゆらゆら揺れる中村城をイメージしたオブジェを、ARによって城跡の風景に重ねて表示する取り組みが行われてきました。下山教授は、「子どもや高校生、大学生、市民が一緒に関わることで、地域の文化はより身近なものになる」と述べ、世代を超えて関わることの意義を示しました。
作山氏の故郷・相馬市への思いに共鳴
一方、下山教授と共に講演会に登壇した同市出身でアートマネジメント会社を経営する作山雄彦氏は、故郷・相馬市への思いを語りました。作山氏と下山教授とは知人関係にあり、地域の価値を見つめ直し、次世代へつなげたいという作山氏の思いに下山教授が共鳴したことが、アートによるワークショップの実現につながっています。
作山氏は、「相馬にはまだ十分に伝えきれていない価値がある」とし、「それをどう見せていくかが大事だ」と語り、地域の魅力を発信する重要性を強調しました。
「門」をテーマにした新たな展開へ 高校生も参加
また、講演では、今年8月に予定されている新たな取り組みについても紹介されました。相馬地域に残る歴史資料に記載された中村城の「門」をテーマに、地域文化を調査し、アートとデジタルを用いて表現するワークショップを実施する計画です。この取り組みには、県立相馬高校の生徒が「総合的な探究の時間」の授業を活用して、地域文化の調査や表現活動を実施する予定です。
このプログラムは、調査・制作・表現を一体化した学びとして設計されており、地域・高校・大学が連携した活動として展開されます。これについて、下山教授は、「調べて終わるのではなく、表現して人に伝えるところまでが大切だ」と述べ、学びのプロセスの重要性を訴えました。
講演後は質疑応答、地域の今後を見据え
下山教授と作山氏
講演会の当日は地域の関係者や市民など多くの参加者が来場し、講演後の質疑応答では具体的な意見交換が行われました。「中村城跡をどのように価値づけ、発信していくべきか」「地域としてどのように合意形成を進めるべきか」といった問いが寄せられ、地域の今後を見据えた議論が交わされました。
下山教授と作山氏は、これまでの活動を踏まえ、「文化翻訳」の手法は特定の地域にとどまるものではなく、他地域にも応用可能との考えで、今後は福島県の沿岸地方の相双地域の自治体へと展開したいとしています。過疎や少子化の問題を抱える地域の文化を保存するだけでなく、学生と地域が共に関わることで新たな価値として再発見し、地域の魅力を次世代へとつないでいく切り札になるのか。相馬市での取り組みは、その試金石となりそうです。







