福嶋 健伸(文学部国文学科教授)
(国語学 国語教育)
『中世末期日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系
古代から現代までの変遷を見通す』
実践女子学園学術・教育研究叢書33
出版社:三省堂(2025年3月)
古代日本語から近代日本語への大きな転換点である、中世末期日本語の文法研究に長年取り組んできた著者の、これまでの研究をまとめる集大成。日本語の変遷を考えるうえで極めて重要な言語であるにもかかわらず、そのテンス・アスペクト・モダリティ体系がこれまでよく分かっていなかった中世末期日本語の不明部分を明らかにし、古代語から現代語までの変遷を明快に見通せるようにした画期的論考。
■著者より
今から約400年前の日本語では、次のような例があります。【 】の表現に注目して頂ければと思います。
例文:貢物を【ささげうこと】はそのいわれが無い
例文:又あの目のくるりとしたも【似た】よ
最初の例文は、キリシタン版の『伊曽保物語』(イソップ物語)のもの、二つ目の例文は、狂言の台本である『虎明本』のものです。
現代の日本語では、「(貢ぎ物を)ささげうこと」や「似た」とは言いませんよね。「(貢ぎ物を)ささげること」「似ている」と言うはずです。では、約400年前の日本語と、現代の日本語とで、このような違いが生じているのは、なぜでしょうか。そして、このような変化は、1000年以上にわたる日本語の変化の中で、どのように位置付けられるのでしょうか。
本書では、このようなことを論じています。序章を読むだけでも、主要な結論が分かります。お時間のない方も、どうかお手にとって頂き、序章だけでもお読み頂ければと思います。
■目次
序章 本書の目的と意義等
第1部 中世末期日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系を記述する
第1章 中世末期日本語の~タと~テイル・~テアル
第2章 中世末期日本語の~テイル・~テアルと動詞基本形
第3章 中世末期日本語の~ウ・~ウズ(ル)と動詞基本形
—~テイルを含めた体系的 視点からの考察—
第4章 中世末期日本語の~テイル・~テアル—進行態を表している場合を中心に—
第5章 中世末期日本語のウチ(ニ)節における~テイルと動詞基本形
第6章 中世末期日本語の~テアルの条件表現
—状態表現として解釈できない~テアレバが存在する—
第7章 中世末期日本語の~タにおける主格名詞の制限について
—文末で状態を表している場合を中心に—
第1部 付章 ~テアルの変遷
第1部のまとめ 中世末期日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系の記述
第2部 中世末期日本語の体系を踏まえて古代日本語から現代日本語への変化を読み解く
第8章 従属節において意志・推量形式が減少したのはなぜか
— 日本語の変遷を「ムード優位言語ではなくなる」という言語類型の変化として捉える—
第9章 中世前期日本語の「候ふ」と現代日本語の「です・ます」の統語的分布の異なり
—文中には丁寧語があるが文末にはない場合—
第10章 中世前期日本語の「候ふ」と現代日本語の「です・ます」との異なり
—「丁寧語不使用」の観点から—
第11章 日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系の変遷
— どのようにして古代日本語の体系から現代日本語の体系になったのか—
第2部のまとめ 古代日本語から現代日本語への変化
第3部 「国語教育」「現代日本語のアスペクト研究」「形式と意味の関係の記述方法」
「日本語学史」への関わりを示す
第12章 「む」「むず」の違和感を「言語類型の変化」と
「テンス・アスペクト・モダリティ体系の変遷」から説明する
第13章 古典文法書間で「む」「むず」の記載内容はこんなにも違う・その1
—「古典文法教育が苦痛であること」の本当の理由—
第14章 古典文法書間で「む」「むず」の記載内容はこんなにも違う・その2
—「む」と「むず」の違いを大学等の入試問題で問うことは妥当か—
第15章 現代日本語の格体制を変更させている~テイル・その1
—「池に鯉が泳いでいる」「冷蔵庫にビールが冷えている」とはいうが
「池に鯉が泳いだ」「冷蔵庫にビールが冷えた」とはいわない—
第16章 現代日本語の格体制を変更させている~テイル・その2
—小説のデータを用いたニ格句の分析—
第17章 アスペクト研究における形式と意味の関係の記述方法を問い直す
—~テイルの発達を踏まえて—
第18章 モダリティの定義に二つの立場があることの背景
—「意志・推量」「丁寧さ」「疑問」「禁止」の各形式の分布が文末に
偏ってくるという変化に注目して日本語学史と日本語史の接点を探る—
第3部のまとめ「国語教育」「現代日本語のアスペクト研究」「形式と意味の関係の記述方法」
「日本語学史」への関わり
終章