研究紹介
佐々木真理教授は、『ゲド戦記』などで知られるアメリカを代表するSF・ファンタジー作家、アーシュラ・K・ルグィンに関する研究で、第10回日本アメリカ文学会賞を受賞しました。佐々木教授に受賞の経緯や自身の研究関心などについて語ってもらいました。(2026年10月27日)
私はアメリカの女性作家や活動家について研究しています。一番関心があるのは、女性たちがどのように作家として、あるいは活動家として、アメリカ社会における地位を確立していったのか、という問題です。というのは、女性たちが文章を通して自らの考えや感情を表現することは、ジェンダー規範を逸脱するものであると長らくアメリカ社会では考えられてきたからです。したがって、女性が作家として認められ評価されるには、さまざまな戦略と闘争が必要でした。これまで私が研究してきたケイト・ショパンやイーディス・ウォートンといった19世紀後半から20世紀初頭に活躍した女性作家たちの作品には、女性が作家であることの苦悩や葛藤が影を落としています。私の研究では、そのような女性たちの活動の軌跡を明らかにすることで、女性と社会との応答から生まれる変化と限界を分析してきました。このような研究は、現代の我々のあり方や今後を見通す視座を与えてくれるものでもあります。
ここ数年は、研究の射程を拡げ、20世紀後半に活躍したアーシュラ・K・ルグィンという作家についての研究書『アーシュラ・K・ルグィン——新たなる帰還』(三修社、2024年)に成果をまとめました。本書は、第10回日本アメリカ文学会賞を受賞し、また、第78回日本推理作家協会賞評論・研究部門の候補作となりました。日本アメリカ文学会賞は、アメリカ文学を専門とする研究者によって審査されるもので、同じ分野の専門家たちによって選ばれた、ということで大変名誉に感じています。日本推理作家協会賞は、受賞とはなりませんでしたが、研究者ではない方々の推薦を受けたということで、私の研究が広く一般の読者にも評価された証ではないかと非常に嬉しく思っています。
アーシュラ・K・ルグィンは、SFとファンタジー作品を主に執筆しましたが、作家としてデビューした1960年代終わりは、女性がSF作品を書くということへの偏見と批判が根強い時代でした。そんな時代にあって、ルグィンは『闇の左手』といった、社会におけるジェンダー規範を問い直すような作品を発表、数々の賞を受賞し、以降の作家たちに大きな影響を与えました。拙著『アーシュラ・K・ルグィン——新たなる帰還』では、SFを書き始めた頃の女性作家を取り巻く状況をふまえつつ、ルグィン作品の試みや特徴について論じています。また、ルグィンは、後期作品においては、ファンタジーにおける伝統を問い直す作品も発表しているのですが、そういった作品の執筆にいたるまでの試行錯誤の日々と、当時の社会的状況や女性運動、フェミニズム批評との応答について考察しています。今後は、さらにルグィンと同時代の作家や思想家との関係性を分析することで、今現在のアメリカ文学におけるジェンダー表象とどのようにつながっているのかを考えたいと思っています。







