文学部 英文学科 佐々木真理教授が「第10回日本アメリカ文学会賞」を受賞しました!
文学部 英文学科の佐々木真理教授が、著書『アーシュラ・K・ルグィン 新たなる帰還』により、「第10回日本アメリカ文学会賞」を受賞しました。
また同著書は、「第78回 日本推理作家協会賞 評論・研究部門」にもノミネートされ、高い評価を得ました。
「第10回日本アメリカ文学会賞」を受賞した
佐々木真理教授
アーシュラ・K・ルグィンの包括的な研究としては本邦初であることなどが評価
受賞対象となった著書『アーシュラ・K・ルグィン 新たなる帰還』
(三修社「アメリカ文学との邂逅」シリーズ:2024/04/30初版)
「日本アメリカ文学会」は、アメリカ文学の研究を長年に渡って行い、その成果の発表を通じて研究者の交流を図ってきた歴史ある学術団体です。その学会が毎年選出する「日本アメリカ文学会賞」は、学会所属の研究者が世に問う最初の単著を対象とし、若手からヴェテランに至る幅広い層の研究を奨励・顕彰するために設けられた賞です。厳しい選考ゆえに「該当作品なし」という年もあるそうですが、第10回(昨年出版の著作物対象)の栄えある受賞作品に、佐々木教授の著書『アーシュラ・K・ルグィン 新たなる帰還』(三修社「アメリカ文学との邂逅」シリーズ:2024/04/30初版)が選ばれました。本書は、作家ルグィンの作品や活動を追った本邦初の包括的な研究書であり、入門書としても読みやすく、評伝というジャンル形態をとる研究書としても価値のある一冊と高い評価をいただきました。また、彼女がSFやファンタジーというジャンルを通して、女性の自由を求めて社会の抑圧に立ち向かった軌跡を描くことによって、ジェンダーの問題にも踏み込んでいることなどが評価されました。
ルグィンは、『指輪物語』『ナルニア国物語』と並んで「世界三大ファンタジー小説」と称される『ゲド戦記』を著したアメリカの女性作家です。日本でも、あのスタジオジブリが「多大な影響を受けた」と公言しており、彼女のファンは多く見られます。しかし、各作品ごとや断片的に語られることは多くあっても、彼女の作品と彼女自身について包括的に研究し論じられているのは、本著が国内では初めてです。そういう意味では、佐々木教授は日本のルグィン研究の第一人者と言えるでしょう。
時間や空間を超えて、人の「想い」や「生き方」を考える
授賞式
実は、SFやファンタジーが研究対象となったのは20世紀後半に入ってからで、佐々木教授の専門分野の1つでもあるこの分野は比較的新しい学問と言えます。「SFは、現在の社会から遠く離れた世界や時代を舞台としたり、世界の成り立ちやあり方も全く異なる場所を舞台としています。そのため読者は、今ここという束縛から解放され、物事を新たな視点で見つめたり考え直したりすることができます。SF作品の研究は、遠く未来の可能性を見据えつつ、現在の社会を捉えなおすきっかけを与えてくれるものだと思います」とSFの魅力を語る教授。もちろんSFに魅了されてきた読者でもあり、特に10代の頃に出会ったルグィンの作品は、文化人類学(父親が文化人類学者)と老荘思想の影響を受けた、哲学的な思索に満ちており、人間を超えた存在(エイリアンやAIなど)が物語の要を担う他のSF作品とは異なった魅力がありました。ルグィンは「人間の想像力とそこから生まれる自由」を信じ、それを現実離れした世界の中で物語るのです。
今回の受賞作品を書き上げるのには5年を要したとのことですが、その間に未曾有のコロナ禍に遭い、当時学部主任だった佐々木教授は、慣れない危機対応に毎日四苦八苦していました。目の前のことを手探り状態でこなす日々に疲れを感じた時にルグィンの作品を読むと、視点を目の前から遠く広い世界に広げてくれ、あらためて発見することも多く、教授自体救われたことも多かったそうです。
文学研究の面白さは、「多様性と可能性に満ちていること」
「個人と社会の接点を見つめることができること」
授賞式でスピーチ
ご自身を「活字中毒」と言うくらい幼少期から読書好きだった佐々木教授に、文学研究の面白さを問うと、印象的な言葉が返ってきました。「1つは、多様性と可能性に満ちていること。文学研究にはこれが正解というものはありません。様ざまなアプローチが許されています。だからこそ新しい発見や驚きをもたらしてくれます。もう1つは、個人と社会の接点を見つめることができること。作品は1人の作家の個性と体験と記憶の集合体ですが、同時に、その作家が育った社会的、文化的背景、またさらに作品が多くの人の手を通るという意味で、同時代の社会を映し出すものでもあります。文学研究は、そのような個人と社会が交錯する瞬間をとらえることができます」
ルグィンは、彼女の求める理想の社会(ユートピア)と自由を描く舞台として、多様性と可能性が豊かに満ちたSFやファンタジーといったジャンルを選び、生涯を通してその信念を深めていきましたが、彼女が執筆活動を始めた1960年代のアメリカ社会では、第2波フェミニズム運動が台頭しており、その作品にはジェンダー問題が色濃く反映されています。
文学作品や時にはディズニー映画を通してジェンダー問題を考える
笑顔でインタビューに応じる佐々木教授
「20世紀後半の女性作家の作品が、21世紀の新たな女性運動とどのように関わっているか」「女性作家によるSF作品において、ジェンダーがどのように表象されているのか」という2つが佐々木教授の最近の研究テーマですが、講義の中では、文学作品だけでな く、学生が興味を持つディズニー映画なども取り上げ、ジェンダーの描き方などの分析や解説をしています。例えば『アナと雪の女王』は、従来のプリンセスと王子様のロマンスを中心としたディズニー作品と異なり、主人公の姉妹が自身の能力に目覚め、姉妹愛を通して伝統的なジェンダー規範を乗り越えようとする姿が描かれています。
現在、私たちは「#MeToo」に代表されるSNSを活用した第4波フェミニズム運動の渦中にあります。日本でも、職場でのハイヒールの強制に抗議する「#KuToo」など、社会の変革につながった事例も記憶に新しいでしょう。また、ジェンダーの問題は、女性だけの問題ではなく多様化しており、広く議論されるようになってきましたが、女子大学で教鞭を執る佐々木教授も、女子大学の共学化やトランスジェンダー学生の受け入れに関するニュースに関心を寄せているとのこと。「社会には一定の規範は必要ですが、その規範に合わない人たちも救えるように、少しずつ規範も変わっていくのが良いのではないかと 思っています」と語る教授も、自身のキャリアの中でジェンダー問題を実感してきまし た。特に結婚して子育てをしながら研究職を続けるのは並大抵のことではなく、これまで続けてこられた秘訣を問うと、「体力はあったので」と笑顔でさらりと応える教授は、なんとフットサルも趣味でされているそう。読書好きの穏やかな印象からは少々意外な一面で、それがまた教授の魅力となっているようでした。
今回の受賞作品は、教授にとっては学生時代から今に至る研究の成果でもあったということで、最後に学生の皆さんへのメッセージをいただきました。「学生時代に興味や関心を持って取り組んだことや経験したことが積み重なって、ひとつの大きな成果を発表できたのだと思います。皆さんもぜひ様ざまなことに興味や関心を持って、自由に多くのことに挑戦してみてください。その時は意味のないことに思えたとしても、いつかきっと何らかの形で皆さんの人生を豊かにしてくれるはずです」







