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橘 弘志先生

人が空間を生みだし、人が環境を作る。
居心地のよい「まちの居場所」を追い求めます。

橘 弘志
Hiroshi TACHIBANA
環境デザイン学科
専門分野・専攻 建築計画学,福祉施設計画,環境行動研究

[プロフィール]東京大学工学部建築学科卒、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了、博士(工学)。早稲田大学人間科学部助手、千葉大学工学部デザイン工学科助手を経て、実践女子大学生活科学部助教授、准教授、教授、実践女子大学環境デザイン学部教授。

「3つのポイントで分かる!」この記事の内容

  • 建築学と心理学の知見を基に、人間が暮らしやすい空間や環境を探求。
  • 高齢者施設で継続的調査を実施。データを基にした説得力ある提案で、施設を改善。
  • 住民が手探りで作る「まちの居場所」を発見、調査することから、街や環境のあり方を考える。

生活の質向上を目指した研究

 建築やデザインというと、建物や空間を新たに創り出すイメージが強いかもしれませんが、私の専門である建築計画という学問分野は少し異なるかもしれません。その施設に部屋がいくつ必要か、その部屋はどういう機能を持つべきか、広さは、天井の高さは、壁の色は、部屋の配置は、などなど、建物を設計する前に、そこを利用する人たちの属性や人数、利用目的や振る舞い方、利用者の意見などを調査し、それにふさわしい建物や空間の条件を提案するのが建築計画です。そして、その場に集う人間の行動と環境の相互作用から、よりよい環境創造について考察するのが、環境行動研究です。建築だけではなく、心理学の側面も強い分野です。
 人がいることで、空間が生まれます。たとえば二人の人間が共に過ごす時に必要な距離は、親密さや過ごす目的によって変わってくる。様々な実際の空間を観察し、そこに生きる人たちの思いを調査することから、研究はスタートします。

綿密な調査データを基に、高齢者施設の環境を改善

 大学院時代には、心理学的アプローチをする先生の基で研究をしていました。そこで参加した2つのプロジェクトが、今の研究につながっています。
 一つは、高齢者施設の研究。大部屋大食堂形式から、ユニットタイプと呼ばれる10人前後の少人数を1つのグループ=ユニットにして個室と共有スペースを設けるスタイルに変化してきた時代です。多様な施設ごとに比較して生活の場として評価する横断的研究と、一つの先駆的施設で継続的に調査を行い入居者の生活様態の変化に着目する縦断的研究を並行して行いました。
 当初ユニットタイプの施設に対しては、施設の運営者や介護スタッフからは不安や疑問の声も聞かれました。たとえば「各個室を回ることによってケアの効率が下がるのではないか」という声。しかし、実際にスタッフの移動距離や作業時間を比べたところ、従来の施設でも結局、あっちこっちの部屋を行き来することが多く、個室になったからといって手間はほとんど変わらないことが分かりました。「大部屋の方が利用者同士のコミュニケーションが多くてよいのではないか」という声も、調べてみたら大部屋でも実は朝晩の挨拶ぐらいしかコミュニケーションがない部屋が多い。一方で、個室だと仲のよい利用者のところを訪ねていくのでかえってコミュニケーションが増えたり、深まる場合もあるということがわかりました。
 介護する側の働きやすさも、介護される側の満足度もどちらも大切です。スタッフや利用者の聞き取り調査や観測調査など様々実施して、生活の質を上げるための施設づくりを考察しました。多種多様なデータを取り、「だから、こちらの方がよい」と理論化をする。ここに研究としての面白さを感じます。

与えられるのではなく、自分で見つけ、関わり、作っていく「まちの居場所」

 もう一つが地域の包括的研究です。専門の異なる複数の研究者が一つの地域を、高齢者、子ども、住宅、路地など、様々な視点で観察、調査をします。私は地域に居住する高齢者の実態調査を行いました。生活している人がどんな場所に立ち寄り、どこでどんなコミュニケーションを行なっているのか。それを重ね合わせていくと、人の行動から見えてくる街の姿があります。ここで環境行動研究の基礎が身についたし、広い視点で街をとらえる今の研究にもつながっています。
 日本では高度成長期に「ニュータウン」と呼ばれる街が各地に整備されました。当初はたくさんの人で賑わった街も、子どもが独立して街を去り、残った親世代は高齢化する。人が減れば店も去り、日々の買い物にも苦労する。住民が部屋に閉じこもり孤立化するなど、様々な問題を抱えるニュータウンで、特段の目的もなくふらっと立ち寄れる「居場所」を作ろうという動きが起きています。寂れてしまった商店街に、小さなカフェや屋台を作って老若男女が食事をしたり、おしゃべりをしたり、ただそこにいるだけの場所を作っている人たちも、全国にいます。それは誰かが与えてくれる「完成した場所」ではなく、その場所を見つけて集ってきた人たちが、自分たちで作り続ける場所です。現在は、そうした「まちの居場所」を発見して、その役割や意味を読み取る試みを行っています

既成概念にとらわれない、多様な視点を持った学生を育てたい

 「まちの居場所」については、学生にも「いい場所を見つけてきて」と言っています。最初「うちの街には何もない」と言っていた学生が、「店主が日替わりのカフェを見つけました」と面白い発見をしてくれました。話を聞くと、この街を少しでも良くしたいと思ったオーナーが、その思いに賛同する人の輪を広げ、ボランティアで空き店舗を改修し、いろんな人が気軽に店を出せるようなシェアカフェを作ったものでした。こうした小さな発見から、利用者や住人、街にとって重要なテーマにつながることも少なくありません。経済効率を考えたら、大型のショッピングモールがよいのかもしれません。でも、街の商店街の方が居心地がよいと思う人もいるし、自分にとって大事な価値観を抱えている人もいるかもしれません。そのような、自分の住む街との関わりや、街に対する思いをすくい上げていければと思います。

学生たちには既成概念にとらわれず、多様な価値観を受け入れてほしい。そして、多様な視点から物事を捉えた上で自分の頭で考え、しっかりと自分の視点や意見を確立してほしいと思います。卒業したらそんな社会人になってほしいと願っています。

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