武内 一良先生
21世紀は、世界の地域と地域が直接デジタルでつながる時代です。
どちらの地域も、観光する側にも観光される側にもなる新たな時代が到来しました。
Takeuchi Kazuyoshi
国際学部 国際学科 教授、学部長
専門分野・専攻 観光学(観光情報論)
Takeuchi Kazuyoshi
国際学部 国際学科 教授、学部長
専門分野・専攻 観光学(観光情報論)
[プロフィール]立教大学文学部英米文学科を卒業後、松田産業株式会社および専門学校神田外語学院を経て、実践女子短期大学に着任。2024年より実践女子大学国際学部の学部長を務める。博士(観光学、立教大学)、全国通訳案内士(英語)。
いまや観光は、地域と地域を
結んだところから生まれる

昔の観光は、有名な観光地に出かけていくというものでした。多くの観光客を効率よく呼び込むには、テレビや雑誌など複数のメディアを使う必要があり、そこで見栄えがしなければならなかったのです。ところが、デジタル社会の到来がこの状況をくつがえしました。インターネットという地球規模のネットワークが確立し、これまで観光とはそれほど縁のなかった世界のさまざまな地域が、インターネットを通じて全世界に向かって情報を発信できるようになったのです。受け手も、インターネットがつながりさえすれば、どれほど奥まったところにいようともSNSなどのネットワークを通じて世界中の情報にアクセスできます。そして、個人的に魅力を感じた地域に足を運ぶ。いまや観光は、メディアという仲立ちなど必要なく、デジタルで結ばれたそれぞれの地域が直接きっかけを作るようになっているのです。こうした世の中の変化に対応し、国際学部では観光の理論やビジネスにまつわることだけでなく、観光の対象となる地域を活性化させ多くの人を呼び寄せるための地域振興についてもグローバルな視点で学べるカリキュラム構成としています。
国際学部を擁する大学は本学だけではありませんが、本学の国際学部は国際語である英語の運用能力が鍵であるという前提に立っています。英語が当たり前のようにできなければ、国際という言葉が絵に描いた餅になってしまうからです。第一に、入学時のクラス分けテストを通じて学生を6つのレベルに分け、次にThree-Way Speakingという独自のコミュニカティブ・アプローチの手法を用いて、日本人教員と外国人教員が対になって毎週必修科目として1年前期から2年前期まで徹底的に運用能力を鍛えるカリキュラムになっています。そして、2年後期には必修科目として海外の協定校大学に行きさらにレベルアップさせ、帰国後の3年前期にも外国人による6レベルの英語必修科目が置かれブラッシュアップされます。この他3年後期にも3年次配置の英語科目が並んでいます。このように、3年になって初めて登場する英語科目を置く学部はなかなかないと思います。

一方、観光に関して言えば、日本や国内地域への関心を海外の方に持っていただくためには、その人の母語で情報発信することが重要です。皆さんが日本語と英語のどちらのサイトを見るか考えれば理解できると思います。世界の人々だって、英語ができようとできまいと自国の言語と英語のどちらが読みやすいかと問われれば、自国の言語と答えるに決まっています。例えば、日本の地域ならではの自然や史跡の魅力を英語で発信すればいいのではなく、世界の人々の母語で発信することによって深い理解に基づいた興味を引き出すことができるのだと思います。そこで、日本にいる留学生が重要な存在となります。留学生の方々にそれぞれ母語で日本の魅力を発信してもらえれば、さまざまな言語で発信する翻訳の問題が解決します。来日したばかりの留学生には国際語である英語でコミュニケーションを取り、日本語ができるようになった方々には日本語や英語のちゃんぽんでコミュニケーションを取りながら、彼ら彼女らの母語で情報発信を行ってもらうことが可能となります。けれど、そうした人々と密なコミュニケーションを図るためには、国際語である英語力を一定のレベルにしておく必要があるのです。自分の英語力を高めておくことで、さまざまな国の人に自信を持って主体的に働きかけを行うことも可能になります。つまり、これからのグローバル社会において、コミュニケーションの基礎的なスキルとなるものが英語力なのです。
国際学部では、私が担当する地域・観光科目群のほか、言語・コミュニケーション科目群、国際文化科目群、日本文化科目群の4つの科目群を用意し、それぞれにおいて専門性の高い知識と高度なスキルを習得できる授業を行います。専門分野を国際語で講義できる先生が揃っていることも本学部の特徴。まさに、「英語を学ぶ」ではなく「英語で学ぶ」環境を創り上げようとしているのです。
学生の皆さんにはこの環境を存分に活かし、英語力を鍛えたうえで4科目群の中から1つを選んで専門的な知識とスキルを身につけ、世界に羽ばたいてほしいと考えています。
具体的な事例を豊富に取り上げ、
海外でのリスクマネジメント法を留学前にレクチャー

私が専門としているのは観光学です。もともとは観光者が地元にお金を落としていくことが注目され、経済効果に対する統計的視点から研究が始められました。そこから、人はなぜ観光するのか、観光地には何があるのかなど、観光者に関わるさまざまな現象を解き明かそうとするようになりました。コロナ禍でも明らかになりましたが、人はずっと同じ場所に居続けるとどこか別の場所に行きたくなるもの。なぜ移動したくなるのかという根本のところを紐解きながら、観光というものを多角的に見つめていきます。最近では、観光学の知見を経営学に応用し、地域に多くの人を呼び込んだり、訪れた人々に満足度の高いサービスを提供したりするための方法論へと発展しています。授業では、観光現象を理論的に読み解く必修科目の「観光学入門a」を担当。独自に書き上げた英語の教材を使用します。この他、専門科目「観光学入門b」では、観光関連産業の全体的な解説をします。

そしてもう一つ、海外渡航に関するリスクマネジメントの科目を担当します。これは通常どの大学でも正規カリキュラムの必修科目とはなっていないと思います。1年次後期に学ぶ「国際文化事前研修」です。この授業では、本学の海外協定校の紹介など、2年次後期の留学を必修科目としている国際学部の学生が、有意義な留学を行うために必要不可欠な情報はもちろん、留学中に事件や犯罪に巻き込まれないための知識をレクチャーします。学生の視点に立ちディスカッションを交えながら、海外でのリスクを最小限に抑えるための自己管理術や対応法を身につけることがポイント。よくある危機管理のように何かが起こった後にその対処法を示すのではなく、何かが起こる前にそれを予測して巻き込まれないようにしてもらう意識づけを行います。
明治時代の文明開化の頃は、自分の可能性を広げたいと願う人たちが目指す場所は首都東京でした。今はデジタルネットワークの拡張によって、活躍の舞台が世界へと広がっています。英語という国際語の運用能力を土台に、世界のいたるところで生活している人々と交流し、日本という国の文化を世界に広めていってもらう人材を育成する国際学部は、「自分も世界で活躍できる」という自信と希望を多くの学生にもたらす場となるでしょう。皆さんの夢を叶えるために、職員と教員が両輪となって全力でその成長をサポートします。
積極的に世界との関りを持ち、あらゆる地域とつながることによってさまざまな機会に出会い、自分だけの映像を創り上げていただきたいと願っています。