朝日新聞のパブリックエディター岡本氏が登壇。報道の信頼性とジェンダー平等をテーマに講演が行われました(5/22)
5月22日、社会デザイン学科の「メディアとインターセクショナリティ」の授業において、朝日新聞社パブリックエディターであり、一般社団法人 日本女性記者協会理事を務める岡本峰子氏を招いた特別講演が行われました。報道の信頼性を守る取り組みや、メディア業界におけるジェンダー平等について、実際の事例を交えながらお話しいただきました。
「編集局で最も孤独な仕事」パブリックエディターとは何か
講演の冒頭で岡本氏は、アメリカの10代を対象とした調査結果を紹介しました。そこでは、「メディアは偏っていて危険な存在である」と考える若者が最も多かったといいます。日本でも、YouTubeクリエイターやポッドキャスターなどが大きな影響力を持つなか、「メディアはどうすれば信頼されるのか」を常に問い続けていると岡本氏は語りました。
その役割を担うのが「パブリックエディター」です。報道内容の正確性や公正性、品位、バランスを検証し、読者の声を編集現場へ届けながら、メディアの質向上を目指します。海外メディアでは一般的な制度ですが、日本では朝日新聞社が2015年に初めて導入しました。
仲間が書いた記事に対して改善点を指摘し続ける立場であることから、岡本氏はこの仕事を「編集局で最も孤独な仕事」と表現。月2~3回行われる会議では、記者やデスクに対して、「なぜこの扱いだったのか」「もっと別の視点はなかったのか」と問いかけ、改善を促していくそうです。
岡本氏は「不祥事が起きた直後は誰もが反省するが、時間が経つと危機感が薄れてしまう。同じ失敗を繰り返さないためには、仕組みとして残すことが必要」とも語りました。
メディア業界のジェンダーギャップと朝日新聞社の取り組み
続いて講演では、メディア業界におけるジェンダー平等についてのお話がありました。現在、新聞・通信社における女性管理職比率は約11%で、一般企業平均の16%を下回っています。役員に占める女性割合も5.7%にとどまっており、意思決定層の多くを男性が占めている現状があります。
一方で、新規採用では女性比率が年々伸びており、新聞協会加盟社で25年春に入社した女性は半数近くになりました。しかし、女性記者へのアンケートでは、「女性社員の採用が増えても、管理職は自然には増えない」と感じる人が若い世代ほど多いことが明らかになったといいます。
岡本氏は、「ニュースで何を取り上げるかを決めるのは、最終的にはデスクや部長、局長といった管理職。そこに多様な視点を持つ人がいなければ、扱われないテーマも出てくる」と指摘。また地方では、「将来こうなりたい」と思える女性記者のロールモデルが少ない現状もあるといいます。
こうした課題意識から、岡本氏らは2024年に一般社団法人日本女性記者協会を設立しました。現在は28社80人以上(2026年5月現在)が参加し、オンライン勉強会や交流会などを通じて、業界全体でジェンダー平等を推進する活動を行っています。
朝日新聞社では2017年から国際女性デーに合わせた特集報道を開始。2020年には社長名によるジェンダー平等宣言を発表しました。例えば「ひと」欄で「どちらかの性が40%を下回らない」という数値目標を掲げるなど、女性管理職比率や記事コンテンツ、男性育休取得率などの目標と達成状況を毎年公表し、促進を図っています。
「人に問いかけるだけでなく、自分たち自身も変わる必要がある」と語る岡本氏の言葉に、学生たちも熱心に耳を傾けていました。
実際の紙面を読み比べ。各社の「国際女性デー」はこんなに違った
講演後には、各新聞社の国際女性デー当日の紙面を読み比べるワークが行われ、学生たちは新聞社ごとの紙面構成や表現の違いを比較しました。
ある新聞社ではミモザの花を使った華やかなデザインが1面から展開されていた一方、別の新聞社では色使いを抑えたモノクロを基調とした落ち着いた紙面づくりがされており、それぞれの新聞社の特徴が表れていました。
学生からは「同じ国際女性デーでも、新聞社によって伝え方が全然違う」「どの記事を大きく扱うかで、その会社が重視しているテーマが見えてくる」といった声も上がりました。また、普段はスマートフォンでニュースを見ることが多い学生からは、「紙面だと関連する記事をまとめて読める」「一覧しながら読むことで理解が深まる」といった感想も聞かれました。
さらに、「これまで自分には関係ないと思っていた不妊治療や“スーパーウーマン幻想”の問題が、記事を通して身近に感じられた」という声もあり、ニュースを通じて社会課題を自分自身の問題として捉え直すきっかけになった様子がうかがえました。
最後に岡本氏は、「図書館には複数の新聞がそろっている。気になった記事はスマートフォンで撮影して残しておくと、授業や就職活動にも役立つ」と学生たちにアドバイスしました。「写真を撮りたくなる記事は、自分の中で何か引っかかっているテーマ。その積み重ねによって、自分がどんなことに関心を持っているのかが見えてくる」と語り、日常的にニュースへ触れることの大切さを伝えました。
報道の最前線に立つ岡本氏の講演は、メディアと社会の関わりについて深く考えるとともに、学生たちが自らのキャリアや社会参加を見つめ直す機会ともなりました。







