車いすで渋谷を歩いた気づきを、社会を変える提案へ。「実践デザインラボⅡ」最終発表(7/23)
7月23日、社会デザイン学科の授業「実践デザインラボⅡ」(担当: 標葉靖子教授)で、車いすユーザーの視点から社会の課題と解決策を考える最終発表が行われました。
学生たちは、車いすユーザーの横山和也さん、中嶋涼子さんのガイドを受け、実際に車いすで渋谷の街を探索。そこで得た気づきをもとに、5チームが商品やサービスのアイデアを発表しました。
街で見つけた課題を、5つのアイデアに
「実践デザインラボⅡ」は、より良い社会の実現に向けた「ソーシャル・デザイン」に、チームで挑戦するプロジェクト型授業です。
渋谷でのフィールドワークでは、学生たちが実際に車いすに乗り、坂道や段差、商品棚の高さなど、普段は当たり前に利用している環境を、車いすユーザーの視点から見つめ直しました。最終発表ではその経験を掘り下げ、横山さんと中嶋さんを前に、各チームが5つのユニークなアイデアを発表しました。
坂道での移動を支える「後付け式ギアユニット」
最初のチームは、車いすで坂道を上る際の負担に目を向け、自転車の変速機を参考に、坂道では軽いギア、平坦な道では重いギアへ切り替えられる「後付け式ギアユニット」を提案。
重さや価格も考慮し、現在使用している車いすに後付けできる仕組みを想定。少ない力で安全かつ快適に移動できるようにすることで、車いすユーザーが外出しやすい環境づくりにつなげたいと説明しました。
自分で商品を選べる買い物支援サービス「リーチリンク」
次のチームは、フィールドワークを通して、車いすに乗った状態では高い棚の商品に手が届かず、値段やパッケージも確認しにくいことに気づきました。さらに、店員に商品を取ってもらった後に「やはり買わない」と断りにくい心理的な負担にも目を向けました。
そこで、外出先で小腹が空き、コンビニで買い物をしたい30代の車いすユーザーをペルソナに設定し、「自分で商品を見比べ、納得して選ぶ」ことを支える「リーチリンク」を提案。コンビニ店内のQRコードから商品を確認・注文し、準備後にレジで受け取るアプリです。
発表では、レゴ®でコンビニを再現し、QRコードの設置場所や利用の流れを模型を使って分かりやすく説明しました。ネット通販では対応しにくい「今、この場で買いたい」という場面でも、車いすユーザーが買い物を諦めずに済む環境を目指します。
「助けてほしい」と「助けたい」をつなぐ「リンク」
3つ目のチームが考案したのは、助けを求める人と近くにいる人をつなぐアプリ「リンク」です。車いすユーザーには「迷惑をかけたくない」と助けを求めにくい場面がある一方、周囲の人にも「どう手伝えばよいか分からない」という戸惑いがあることから、そのすれ違いを解消する方法を考えました。
利用者が段差やドア、エレベーターなど、困っている内容と位置情報を送ると、近くにいる人へ通知されます。助ける側は、アプリ内の動画で介助方法を確認できるため、経験がなくても行動に移しやすい仕組みです。LEDで支援の必要を伝えるスマートバッジも考案し、発表では利用場面を想定した実演も行いました。
駅構内の移動を助ける「Wheel Way Station」
4つ目のチームは、駅構内の案内表示の分かりにくさや、エレベーターまでの経路、故障・工事などの情報不足を課題に設定し、公式情報と利用者の口コミを組み合わせ、一人ひとりに合ったルートをリアルタイムで案内するアプリ「Wheel Way Station」を提案。
工事や混雑、エレベーターの状況を投稿でき、音声案内やポイント制度も盛り込みました。発表では、ルート検索から情報投稿までの流れを実演し、具体的な利用イメージを示しました。
一人暮らしの先まで支える物件探しアプリ
5つ目のチームは、女性車いすユーザーの物件探しを支援するアプリを考案しました。
利用者がバリアフリー設備や通勤、防犯などの希望条件を入力すると、条件に合った物件を提案。オンライン内見や女性スタッフへの相談機能に加え、入居後の生活に役立つ地域福祉サービスや災害時の情報なども提供し、一人暮らしを継続的に支える仕組みです。
発表では、進学や就職を機に一人暮らしを始める2人の女性を想定。物件探しから面談、内見までの流れを実演し、住まいを見つけるだけでなく、その先の暮らしまで見据えたアイデアを紹介しました。
一人ひとりを想像し、誰もが暮らしやすい社会へ
5チームの発表後、横山さんと中嶋さんから、それぞれのアイデアについて実体験を交えたコメントが寄せられました。
中嶋さんは、「どのグループも実用化されたら、社会がもっと暮らしやすくなると思う」と全体を振り返りました。設備や移動といった「環境面のバリアフリー」に目を向けた提案だけでなく、人と人との助け合いを促す「心のバリアフリー」を考えた提案、さらにその両方を取り入れた提案があったことに触れ、それぞれのチームが異なる視点から課題を捉えていた点を評価しました。
横山さんも、5つの提案について「どれも現実味がある」と評価し、学生たちに自信を持ってほしいと伝えました。そのうえで、フィールドワークや授業で得た気づきは時間が経つと薄れてしまうからこそ、街で車いすユーザーを見かけた際には、この経験を思い出し、必要に応じて声をかけるなど、日常の行動につなげてほしいと語りました。
各チームが見いだした課題には、中嶋さんと横山さんが実際に経験してきた困りごとと重なるものも多くありました。学生たちにとって、自分たちの気づきが車いすユーザーの実感とつながっていることを知り、課題への理解をさらに深める機会となりました。
車いすに乗って街を見つめ、課題を発見し、解決策を考える。そして、実際にその課題を経験してきた当事者の声を聞き、自分たちの提案を見つめ直す。今回の最終発表は、授業の中だけで終わらない視点を身につけ、これからの日常や社会のあり方を考える機会となりました。
担当教員(標葉靖子教授)からのコメント
今回の授業では、横山さんと中嶋さんにご協力いただき、実際に車いすで渋谷の街を巡るフィールドワークから、課題の発見、解決策の提案まで取り組みました。最終発表では、お二人から実体験に基づくご意見や実用化に向けたアドバイスをいただき、学生たちにとって、自分たちの提案を見つめ直し、新たな視点を得る貴重な機会となりました。
誰もが暮らしやすい社会を実現するための方法は、一つではありません。その時々で困っている人を想像し、自分自身も支える側にも、助けを求める側にもなり得るという柔軟な視点を持つことが、インクルーシブデザインを考えるうえで大切です。
今回の経験を車いすに関する学びだけにとどめず、身近な人と共有しながら、これからさまざまな場面で生かしてもらえたらと思います。







