糖尿病の薬で「やせる」ことの思わぬ落とし穴 — 管理栄養士だからできること
「血糖値を下げる薬で、やせられる」と聞くと良いことずくめに思えませんか? ところが、そこには意外な落とし穴がありました。今回は、筑波大学との共同研究から見えてきた課題と、管理栄養士だからこそできる支援についてお話しします。
糖尿病の治療では近年、血糖値を下げるだけでなく体重を減らし、心臓や腎臓の合併症を防ぐことも重視されるようになりました。その中で注目されているのが「SGLT2阻害薬」と「GLP-1受容体作動薬」という2種類の薬です。SGLT2阻害薬は尿に糖を出すことで血糖を下げる薬ですが、心臓や腎臓を保護する作用もあり、現在では糖尿病だけでなく心疾患や腎疾患の患者さんにも幅広く使われています。一方、GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌を促し食欲を抑えることで血糖を下げる薬で、最近では肥満症の治療薬としても注目を集めています。どちらも体重減少の効果があり、世界中で処方が急速に広がっている薬剤です。
しかし、体重が減るとき、脂肪だけが減るわけではありません。エネルギーが足りなくなると、体は筋肉も分解してエネルギー源にしてしまいます。食事制限だけの減量では、減った体重の20〜30%が筋肉の減少だと言われています。筋肉が減ると転倒しやすくなりますが、糖尿病の患者さんはもともと同年代の人の1.5〜3倍も転倒しやすく、特に高齢者では骨折から寝たきりにつながることもあるため、これは見過ごせない問題です。
そこで私たちは「これらの薬を飲んでいる患者さんは転倒が増えるのではないか」という仮説のもと、2型糖尿病の患者さん471人を最長5年間追跡しました。結果は仮説どおりで、SGLT2阻害薬を服用している患者さんの転倒リスクは約1.9倍、さらに2剤を併用すると約3.3倍にまで上昇していました。
では、管理栄養士にはどんな役割があるのでしょうか。鍵を握るのがたんぱく質です。減量中でも体重1kgあたり1.2〜1.5g以上のたんぱく質を摂ることで、筋肉の減少を抑えられると報告されています(体重60kgの人なら1日72〜90g)。しかし話はそう単純ではありません。これらの薬を飲んでいる患者さんには腎機能が低下している方も多く、たんぱく質の摂りすぎは腎臓に負担をかけます。「筋肉を守りながら、腎臓も守る」——この難しいバランスを患者さん一人ひとりに合わせて調整することが、まさに管理栄養士の腕の見せどころです。
この研究は2025年3月に論文として発表されました。直後にX(旧Twitter)で紹介されたことをきっかけに注目が集まり、同時期に世界中で出版された約35万報の中で閲覧数トップ3%に入りました。「新薬の良い面だけでなくリスクにも目を向けるべきだ」という問題意識が、世界の医療者に共有されていたことの表れだと思います。
(臨床栄養学研究室 鈴木浩明)







