環境分野 ~ 授業紹介 ~
現代の暮らしと社会の諸課題とその解決法を、「環境」「メディア」「⾃⽴」の3つの領域から横断的に学修する生活科学部現代生活学科。環境・エネルギー領域について学ぶ環境分野の授業ではどのようなことが学べるのか、その一例として、倉持一准教授の『環境経済学』『現代社会を読み解くa』の学びについてご紹介します。
『環境経済学』
『現代社会を読み解くa』
倉持 一 准教授
『現代社会を読み解くa』
倉持 一 准教授
経済と企業経営の視点から
環境問題について考える『環境経済学』
「経済人モデル」の視点で物事を見ることからスタート
これまで私たちが当たり前のものとして享受してきた自然資源は、私たち自身の経済活動の影響によって有限の資源としての性格を強めつつある。そこで、経済と企業経営が環境に与える影響と、環境と調和した経済の在り方を考えることを目的した授業が『環境経済学』だ。「環境問題を経済学の視点で分析し、環境問題発生のメカニズムや改善に向けた取り組みの方向性を考えるのが『環境経済学』という学問です。その土台となるのは、人間は自分の選択の結果を事前に予測し、常に損ではなく得を選び合理的な行動を取るという『経済人モデル』。環境問題のグローバルな側面を見通せる目を養うことを授業の目的にしています」と先生は語る。
この授業では難解な数式は用いない。毎回行うグループディスカッションのテーマは、“なぜ私たちは道に落ちているゴミを喜んで拾わないのだろう”といった身近なものだ。「価格がつかないもの、つまり利益にならないものがゴミです。そこで、ゴミについてもう少し考えてみましょう。たとえば、コンビニで売られているおにぎりのラップ。店頭に並んでいる時は商品の一部ですが、おにぎりを食べ終わった途端、経済人モデルから見るとそれはゴミに変わります」
先生はゴミを例に説明を続ける。「ゴミは拾って捨てるべきという道徳観念から、自身の得にならなくてもゴミを拾う人もいるでしょう。しかし、経済人モデルは道徳観念を考慮しません。“経済人モデルの眼鏡”をかけて物事をシンプルに捉えると、これまでとは違った世界が見えてくるのです。合理性という人間の利己的な側面を強調することで、環境問題の本質への学生の理解を促しています」
「規模の経済」と「価値の変動」を知り、環境問題への理解を深める
「規模の経済」の理論を知ることも環境問題の原因を探る上で重要だと先生は話す。「同じ生産設備を使用し製品を生産する場合、生産量を増やすほど製品1つあたりのコストが低くなる、これが『規模の経済』です。学生の関心が高い環境問題の一つであるフードロスの背景には、この『規模の経済』の考え方があります」
「経済人モデル」と「規模の経済」で環境問題発生のメカニズムを理解した次に考えるのは、環境問題をいかに解決するかだ。「環境問題の解決を考える上で重要となるのが、価値は変化するという経済学的視点です。たとえば、海洋ゴミの問題の一つの解決策として『プラスチック・スマート』が注目されています。これは、海洋プラスチックゴミを再資源化して付加価値のある商品を作り、海洋ゴミ削減とビジネスを両立させるという取り組みです。つまり、ゴミを価値あるものに変えてしまうという発想です。このように、経済学は環境問題の解決手段の一つになり得るのです」
過去の公害から学び、
国際化する環境問題を考える
『現代社会を読み解くa』
過去の公害への政治的、経済的、経営的な対応を振り返る
人類の歴史と常に表裏一体の関係にある環境問題。私たちの生活が豊かで便利になると同時に、自然環境に与える影響も大きくなる中、私たちは自然環境をどのように捉え、環境問題にどのようなアプローチで対応してきたのか。それを理解し、今後のあるべき方向性を探究する授業が『現代社会を読み解くa』だ。
この授業で最初に取り上げるのは、水俣病や四日ぜんそくといった国内で起きた公害。「公害発生の経緯は知っていても、その背景まで学習していない学生がほとんどです。まずは、政治には政治、経済には経済の目標があるが故に、そのボタンの掛け違いが公害という悲劇に結びついていることを知ってもらうことから始めています」と先生は言う。「公害を発生させた企業に責任があるのはもちろんですが、それを規制しなかった政府にも責任はある。利益を上げたいという企業の願い、日本経済を成長させて国民の生活を豊かにしたいという政府の願い、どちらも間違ってはいませんけ。れども、公害が起きて犠牲になるのは市民。まずは公害発生のメカニズムを理解し、2度と同じ過ちを繰り返さないためにどうすべきかを考えることが肝要です」
ポジティブな理解のもと、国際化する環境問題の未来を考える
カリキュラムの後半では、海洋汚染や地球温暖化といった国際的な環境問題を取り上げる。「国境を越えた環境問題を考える上で欠かせないのが、グローバルなレベルでの政治と経済の協力、協調です。しかしながら、国家には管轄権という制約があります。日本だけが努力する問題ではないものの、日本が努力しなくてもよいという問題でもありません。こうした国際的なバランス感覚を培うこともこの授業の目標に掲げています」
たとえばカーボンニュートラルの問題を考える際、先進国が発展途上国にCO2の排出を抑えろと要請するのは、先進国側のエゴかもしれないと先生は話す。「これから豊になろうとする発展途上国の権利を先進国が奪うことなどできない。では、どのように各国が協調していけばよいのか、そこに正解はありません。授業は正解を教える場ではなく、より良い社会を作るために何をすべきかを学ぶ場だと考えています」
また、環境問題を考えるにあたり必要なのは“ポジティブな理解”だと先生は強調する。「最終的に行き着くのは、私たちがどのような豊かさを目指すべきなのかということ。誰が悪いかを追及するのではなく、これまでの悲劇から何を学び、いかに未来へとつないでいくのかを考えるべきです」
女性ならではの視点を
環境問題の解決に生かして
女性ならではの視点と授業で得た学びを生かして社会の即戦力に
『環境経済学』と『現代社会を読み解くa』、両科目の履修者に対して関心のある環境問題は何かと聞くと、学生が真っ先に挙げるのが海洋ゴミ問題や地球温暖化問題だ。それを踏まえて授業構成が練られているため、最終的には「なぜ海洋ゴミが増えていくのか、なぜ地球温暖化が止まらないのか、その背景に人間の合理性があることがわかった」と話す学生が多いという。
それだけではない。学生たちの意識にも確実に変化が現れている。「授業の影響で、マイボトルを持ち歩くなど日々の行動が変わったと話す学生も少なくありません。就職活動の際、環境問題に熱心に取り組んでいるかどうかを企業選びの軸に置くようになったという学生もいます」
さらに先生は、環境問題の改善に向けた女性のパワーにも期待を寄せる。「女性の社会進出が当たり前となってきている今、女性が社会を変える大きな原動力となっていることは間違いありません。それは同時に、従来よりも高いレベルの能力が女性に求められているということでもあります。これからの社会をどうすればより良いものにできるのか、我々はじっくり考えるべき時にきています。今後も時事的な問題を取り入れながら、人々の暮らしの諸課題とその解決法を考える現代生活学科ならではの学びを体現する“人財”を育てていきたいと考えています」