
図書館員のおすすめ本紹介
図書館員がおすすめする本を紹介します【渋谷】
今号は渋谷の館員2名がご紹介します。
図書館の所蔵情報も入れておきますので、ぜひ、借りて読んでみてください。
生きて行く私/宇野千代著
「夜が更けて、さあ寝よう、と言うときになって、「こんな蒲団しかないが」と言って、押し入れから出して来た蒲団には、血痕がこびりついて、がりがりになっていた。二人の男女の頸から流れ出た夥しい血のかたまったものだと分かったとき、私はそれを気味が悪いと思っただろうか。そうは思わなかった、と言ったら、人は信じるだろうか」。
この一節は、パリから帰ったばかりの新進気鋭の画家、東郷青児と宇野千代が初めて会った夜の出来事です。2人が出会ったとき、東郷青児は情死事件を起こしたばかり。頸に白い包帯を巻き、一目でそれとわかる姿だったと書かれています。
尾崎士郎、北原武夫との結婚から離婚に至るまでのことや、梶井基次郎との噂の真相、谷崎潤一郎との交友など、有名人とのエピソードには枚挙にいとまがありません。また、生後1年半で母を亡くし、「一種の奇人、乃至は狂人」だった父との幼少期、山口県岩国での女学校時代、小学校の代用教員から作家に至るまでの人生も知ることができます。過酷な時代に流されず、宿命のような困難に全身で飛び込み、時には失恋のどん底から這い上がる、宇野千代の驚愕の行動力が全編にみなぎっています。
私が、ぶっ飛んでいるなぁと感じるのは、宇野千代先生、思いつくと、お金の目途も立たないのに家を建ててしまうことです。結婚したとき、離婚したとき、生涯で13軒の家を建てました。「いつでも、生活の始めに、まず、家を建てる。この私の習癖は何なのか」。自分でもナゾ、みたいですね。
図書館所蔵情報
※編集部註:
筆者はジャケットの似顔絵がキュートな私物の角川文庫版を愛読してきたそうですが、
実践女子大学図書館の所蔵は薄紫色の風情のある表紙に本文の間に挿画も付いた上・下巻の単行本です。
古典力 / 齋藤孝著
私がこの本と出会ったのは、社会人になってからです。仕事帰りに本屋に寄ることが、私のストレス発散方法のひとつです。色々なエリアを歩き回って本を眺めていると、乾いた心が満たされるような感覚になります。社会人になってすぐの時は、本を読む気力も体力も無かったのですが、ある日ふと「本、読みたいな」と思い手に取ったのが、齋藤孝さんの『古典力』でした。タイトルと、帯の「マイ古典をつくろう!」という言葉に惹かれました。そうそうと共感したり、へぇーと驚いたり、疲れ果てて失っていた感情を取り戻せたような気がしました。この本は後ろ向きだった私の背中を押してくれた一冊です。
読んでいて心を掴まれたのは、「この本での古典は古文ということではない」「思想・哲学科学等さまざまな領域で人類の遺産と呼べるような著作のことだ」「自分自身の支えとなるような本もまた自分にとっての古典といえる」という言葉でした。『古典力』というタイトルに身構えていたのですが、肩の力を抜いてじっくりと読むことができました。
この本には、古典を読むためのコツ十カ条が書かれています。十カ条はどれも分かりやすく、すぐに実践できます。十カ条の中で、最も印象に残ったのは、「第四条 パラパラ断片読み」です。最初の一文に「気楽に古典にいざ取り組もうとするときに、注意したいのは、力まないということだ」と書かれており、私のことを言っているのだと感じました。パラパラ読みによる言葉との出会いは、「セレンディピティ感覚を磨き、この感覚は人生全般において強力な味方となる」と述べられています。古典は、自分が苦しい時にそっと寄り添い助けてくれる存在であると改めて思いました。
古典力とは何か、その答えが色々な場面に散りばめられています。古典を味わい活用する先人達のワザや、著者おすすめの古典五〇選が載っているので、是非読んでみてください。先人達のワザは、十カ条を踏まえているので、とても読みやすいです。著者おすすめの古典は、見開き一ページで作品の解説が載っています。解説の続きを望んでしまうほど面白いです。更には、おまけのプラス五〇選がコメント付きで紹介されており、盛りだくさんな一冊です。色々な古典作品を読んでみたくなり、私もマイ古典をつくりたいな、と思いました。
皆さんが少しでも古典に興味を持つきっかけになったら嬉しいです。
図書館所蔵情報
※編集部註:
筆者は自分で購入した私物を愛読してきたそうです。書店でも図書館でも、いいなと思う本との出合いは
嬉しいものですね。
なお、筆者にとってはこの本とのであいは著者とのであいでもあり特別な本であるという意味で、あえて
「出会い」という表記を用いています。







