民俗芸能ゼミ・演習の学生が「日本遺産研究発表会」に参加 串田紀代美
2023年6月13日(火)セルリアンタワー能楽堂で開催された「日本遺産研究発表会」に、民俗芸能ゼミ・演習履修者の有志26名とともに参加しました。
「日本遺産」とは
「世界遺産」の日本版と言えばわかりやすいかもしれません。文化財とは異なる認定制度として、2015年4月に誕生しました。全国各地に点在する文化資源を「線」で結び、一つのエリアにある複数の文化を魅力あふれる「ストーリー」とともに発信します。
アメリカ・カナダの大学院生が日本文化の魅力発信
今回の「日本遺産研究発表会」は、海外に向けた日本文化の魅力発信という目的で開催されました。そのため、発表者はアメリカとカナダの大学院に在籍し、研究等に必要な上級日本語を集中的に学ぶ研究機関Inter-University Center for Japanese Language Studies(IUC)に所属するみなさんです。その内容はバラエティに富み、伝統工芸、宗教、日本酒、沖縄の文化遺産と郷土料理、近代化遺産としての関門海峡などがありました。いずれの発表も、独自の視点が際立っていて大変刺激的な内容でした。
伝統と創造のはざまで—多様な価値をどう継承するか
まず、日本遺産の「生みの親」でもある下村博文元文部科学大臣や文化庁関係者のみなさまからご挨拶があり、太神楽の実演後、いよいよ発表会のはじまりです。
内容を少しだけご紹介しましょう。「伝統と創造—井波彫刻の今」(富山県南砺市)では、地域の方々が貴重な伝統文化として井波彫刻を継承しています。しかし、「職人」として技の伝承に集中するか、「アーティスト」として新たな創意を工夫するか、当事者たちの悩みが浮き彫りとなり、地域の文化資源を活用しつつ、その魅力を将来へと繋げていく際の苦労がにじみ出る発表でした。
さらに京都市・高台寺「アンドロイド観音」をテーマにした発表では、「宗教」と「テクノロジー」の関係性について複雑で革新的な問題が提起されたほか、北九州市「関門海峡」には戦時中の負の遺産があるため海外に向けた発信が難しいなど、「日本遺産」が持つ多様な価値観と評価について考えさせられました。ほかにも宇治平等院や四国遍路、江戸時代から続く灘の清酒の魅力、沖縄の文化遺産と郷土料理の独自性など、日本にずっと住んでいる私たちがまだ気づいていない日本の魅力が詰まった発表会でした。
<発表を聞き、学生が考えたこと>
- 伝統の危機及び保存・継承について以前から興味を持っていました。また、関係者の方々の話など、正しい伝統の現状を知ることができました。あの場にいた方々が伝承の危機について、改めて考えるきっかけを作る発表だったと感じ、私もこんな発表がしたいと思いました。
- アンドロイド観音を初めて知り、とても興味深かった。人間離れした観音を表現するのに、あえて金属部分を剥き出しにしているボディーが観音とは思えないが、とても神秘性を感じた。
- 日本人も知らない近代日本の持つ暗い側面と、その矛盾と複雑性を丁寧に解き明かしていた。 今後の展望としては、観光的なアピールではなく、歴史的なストーリーを伝えて理解を促すことで、関門海峡の魅力を発信することが期待できる。
- 一種の娯楽としての観光という側面からでなく、歴史と文化の流れを感じ改めて学ぶための観光という側面からアプローチされた研究がとても興味深かった。戦時中の出来事は、現在でもなお国と国の対立を招くなど簡単には解決することのできない、さまざまな問題が絡み合った根深く難しい問題であるが、それらに関して私たち日本人でなく中国の方の視線からどう捉えられているのかを実際に聞くことができ、大変勉強になった。負の歴史を覆い隠さずありのままに伝え、今後それらが繰り返されないようどのように私たちが学び続けていくべきなのか、そのような示唆を与えていただいた発表であった。
地域文化をめぐる多様なストーリー
美術史や民俗芸能など有形・無形の文化資源を学ぶ私たちにとって、日本遺産の持つ多様なストーリー性と海外への発信力の重要性に気づいた貴重な機会でした。アメリカとカナダの大学院に在籍するIUCの学生の発表では、テーマの着眼点はもちろん、明確で論理的な発表構成と聴衆の心を捉えて離さないパフォーマンスが魅力的で、聞き手に直接訴えかける発表スキルを学ぶことができました。
質疑応答では美美の学部学生の質問に対して、丁寧にわかりやすく説明してくださった発表者のみなさん、どうもありがとうございました。最後に、本発表会への参加を許可してくださった東急ホテルズ&リゾートのみなさま、IUCブルース・バートン所長ならびに関係者のみなさまに心からお礼を申し上げます。