食生活科学科の学生が開発した「下諏訪宿本陣EDO BENTO」のお披露目会が長野・下諏訪町で開催!学生の試作品が地元の料理人の手で磨かれ、完成品に。(10/8)
江戸時代に日本全国を測量した伊能忠敬が宿泊した下諏訪宿本陣岩波家(長野県下諏訪町)で10月8日、生活科学部食生活科学科の学生が開発した「下諏訪宿本陣EDO BENTO(えど・べんとう)」のお披露目会が開かれました。7月30日の試食会で学生たちが試作した弁当をもとに、地元の武居章彦さん(「二十四節氣 神楽」店料理長)がプロの料理人の目で一工夫し、華やかなものに仕上げました。学生ら約20人が長年受け継がれてきた本陣の「献立書」の食材を使い、現代の食文化に合わせて磨き上げられ完成した弁当の味を確かめました。
お披露目会終了後には参加者全員で記念撮影
伊能忠敬が宿泊した本陣の献立を現代に再現。完成品は3種類のラインナップに。
彩り豊かな3種類のラインナップ
会場となったのは、築220年の岩波家本陣の和室。扉は開け放たれ、名庭園が柔らかな光とともに、まるで屏風絵のような風情を醸し出しています。部屋の中央には、飯、主菜4品、菜6品、香の物の豪華版「本陣EDO BENTO」、飯、主菜2品、菜5品、香の物のテイクアウト版「伊能忠敬測量隊BENTO」、飯、主菜1品、菜4品、香の物の若者向けの軽食用「EDO BENTO mini」の3つに構成された「下諏訪宿本陣EDO BENTO」のラインナップがそろいました。
岩波家28代当主の岩波太左衛門尚宏さんのあいさつで始まり、佐藤幸子教授がこれまでの活動経過を説明。「本陣の献立書を手がかりに、学生が文献を調べ、料理を再現し、地域と協力しながら形にしてきた。その学びの集大成が今日です」と語りました。続いて、卒業研究のテーマに今回のプロジェクトを設定して、中心的に取り組んだ生活科学部食生活科学科食物科学専攻4年の小澤友唯さんと山崎結花さんがプレゼンテーションを行い、献立再現の過程を紹介しました。古文書には食材名しか記されていなかったため、江戸期の料理書を読み解き、調理法を推定したこと、試食会での課題、味の再調整の工夫などを具体的に説明しました。
「彩りがいい」「手が込んでいる」と一様に感嘆の声
お披露目会の会場に集まった学生たち
いよいよ試食タイム。地元の関係者や学生の前には、竹で編んだ弁当箱に入った「EDO BENTO」が並び、蓋を開けると、「彩りがいい」「手が込んでいますね」と一様に感嘆の声が上がりました。
「EDO BENTO」は、鶏の炭火焼き、うなぎのかば焼き、だし巻き卵、あわびの蒸し煮、かんぴょうのごま酢あえ、突きこんにゃくの吹き寄せ、長芋の出汁焚き、栗の浅茅田楽など11品。調味料は砂糖・塩・酢・醤油・味噌の五味に絞り、江戸の食文化の特徴である「素材の持ち味を生かす」考えが踏襲されました。汁物やデザートには下諏訪産のきのこや南水梨など地元の旬の食材を取り入れ、伝統と現代の融合を図りました。
武居さん「酢で味に締まりを、イチョウ加え見た目も華やかに」
プロ目線で一工夫したポイントを説明する武居さん
途中から、調理を担当した武居さんが姿を現しました。この日早朝から調理を開始し、約20人分の弁当を一人で仕込みから盛り付けをしたという武居さん。「学生の試作品には、文献を忠実に再現しようとする真摯な姿勢がありました。ただ、現代の味覚や盛り付けの感覚に合わせるには、もう一歩工夫が必要でした」と切り出し、「和食は淡い味になりやすいので、油や酢で締まりをつける。青菜やイチョウを加えることで、見た目にも華やかさが出る」と説明。「学生が大切にしてきた“江戸の味”を壊さず、現代に生きる料理にしたかった」と話し、プロの料理人としての誇りがにじみ出ていました。
テレビの取材も
試食後の意見交換では、「学生の発想を地元料理人が生かしている」「地域に誇れる弁当になると思う」といった声が寄せられました。また、学生たちが一人ひとり立ち上がり、感謝の言葉を述べました。「ここまで支えてくださった方々に感謝しています」「この経験を次につなげたい」と語る姿に、会場の空気がやわらかくなりました。また、地元の新聞・テレビ計8社が取材に訪れ、会場内では、複数のカメラが並び、学生たちや佐藤教授がインタビューにも答える光景が見られました。
岩波さん「学生の皆さんの力で、一枚の献立書から、江戸の料理が現代によみがえった」
「学生の皆さんのおかげ」と喜ぶ岩波さん
佐藤教授は「学生たちはこの活動を通して、食文化を“自分たちの学問”としてだけでなく、“地域の財産”として考えるようになりました。食を通じて地域と関わる経験が、確かな自信になったと思います」と語りました。また、「料理は科学であり、文化であり、社会とつながるもの。試作と評価を繰り返す中で、学生たちは“誰のための料理か”を意識するようになった」と述べ、教育の場が地域に開かれる意義を改めて強調しました。
最後に、岩波太左衛門尚宏さんは、献立書を発見した当時を振り返りながら、「たった一枚の献立書から、ここまでのつながりが生まれるとは思っていませんでした。学生の皆さん、そして武居さんの力で、江戸の料理が現代によみがえりました。これは地域の文化を伝える“物語のある食”です」と感謝を述べました。さらに、「観光客の方にも提供できる形にして、地域の人たちが誇りを持てるようにしたい」と今後の展望を語り、会場から拍手が起こりました。
今回の「EDO BENTO」開発は、単なる再現にとどまらず、地域と大学、学生と料理人が協働する新しい学びのモデルにもなりました。「本陣EDO BENTO」や「伊能忠敬測量隊BENTO」は今後、本陣や観光施設で、また、「EDO BENTO mini」は日野キャンパスの「さくらカフェ」で提供していくことを検討します。学生たちは後輩へプロジェクトを引き継ぎ、改良を重ねながら“食による地域連携”をさらに広げていく考えです。
【学生のコメント】
中心となった学生2人と
完成したお弁当は、ぎんなんを彩りに加えたり、アワビの殻をなくして中身だけにしたり、プロの方のアレンジで見た目も味もすごく洗練された感じになりました。「かんぴょうの胡麻酢和え」に豆腐が使われなかったのはちょっと寂しかったけど、安全面とか観光向けに出すことを考えたら、なるほどなって思いました。最初は「江戸時代の食文化って面白そう」くらいの気持ちで参加したけど、地域の方と関わっていくうちに、下諏訪をもっと良い街にしたいとか、観光客にこのお弁当を食べてほしいという気持ちがどんどん強くなりました。岩波さんが下諏訪町内を案内してくれた時は、すごくうれしくて、もっとこの地域の力になりたいと思いました。今回の経験で、自分たちの作ったものが誰かの役に立つということが実感できて、視野もすごく広がりました。
(生活科学部食生活科学科食物科学専攻4年 小澤友唯さん・山崎結花さん)
生活科学部食生活科学科 佐藤幸子教授のコメント
概要を説明する佐藤幸子教授
学生たちの取り組みを見ていて、彼女らが本当に地域の視点を意識するようになってきたことに、教育の成果を感じています。最初は「作って食べてもらう」ことが目的だったのが、今では「どうしたら食べてもらえるか」「誰に届けたいのか」といった視点にまで踏み込めるようになりました。岩波さんの関わりも大きく、地域の方々の考え方に触れることで、学生たちの思考が深まったのだと思います。調味料の調整など、細かな部分にも気を配るようになったのは、実践的な学びの証です。第三者からの評価を受け止め、自分たちの作品を見直す力も育ってきていて、教育活動として非常に意義のある時間になっていると感じています。この経験が、彼女らの今後の学びにしっかりとつながっていくことを願っています。







