白尾 美佳先生
地域に学び、地域に貢献する。
「食」を通して人とつながる教育を実践しています。
白尾 美佳
Mika SHIRAO
生活科学部 食生活科学科 教授
専門分野・専攻/食品栄養学、食育
Mika SHIRAO
生活科学部 食生活科学科 教授
専門分野・専攻/食品栄養学、食育
[プロフィール]実践女子大学卒、日本女子大学大学院修了、東京医科歯科大学 大学院博士課程修了。2002年実践女子短期大学助教授、2013年より現職。日野市食育推進会議議長、一般社団法人 日本食育学会常務理事、東京都食品安全情報評価委員会委員、東大和市学校給食運営委員会委員。
「3つのポイントで分かる!」この記事の内容
- 食品に含まれる活性酸素を抑制する物質=抗酸化性物質を研究。
- 日野市や恵那市と連携した食育、食農体験、商品開発などを継続。
- 人の役に立つ研究と学生の成長が見られる教育。両立できることがやりがいに。
卒論がきっかけで、研究の楽しさを知る
入学時には「研究者になる」などとはまったく考えていなかったのですが、卒論のために栄養学の研究所で実験をさせていただいたことがきっかけで、研究の楽しさに目覚めました。
卒業論文の担当の速水決先生の紹介で通うことになった国立健康栄養研究所では、魚の脂肪酸が生活習慣病予防に関わる研究をおこないました。今では多くの人が知っているEPAやDHAといった成分ですが、当時はまだ、一般の人は「魚の脂が健康にいいらしい」 程度の認識しか持っていませんでした。EPAやDHAを投与したラットは投与していないラットよりもコレステロール値や中性脂肪の値が低下する。自分がやったことがこうした結果に結びつくことが、単純に嬉しかったですね。そして過去の研究の積み重ねや、自分が現在行っている研究成果が将来的に人々の健康増進に役立つことにも魅力を感じました。研究を続ける厳しさも知りましたが、魅力の方がより一層大きく感じられ、研究者への道を選びました。「食品」は身近な素材ですが、深く追求すると多くの知識を得られます。楽しいし、奥が深いと感じています。
食品中の抗酸化性や、鏡像異性体に関する研究
体内で過剰に発生すると老化や生活習慣病の原因ともなる、活性酸素。その酸化を抑制する性質である抗酸化性が、研究テーマの一つです。抗酸化性物質は様々な食品に含まれているのですが、例えば野菜なら栽培法や熟成度合いで抗酸化性の強度に違いが出るので、その原因を追求しています。ここ数年は味噌の配合割合や熟成期間の違いが抗酸化性にどういう影響を与えるかの研究をしています。
また、食品中のアミノ酸やテルペン系物質の鏡像異性体に関する研究もしています。鏡像異性体は分子式は同じでありながら、鏡に映したような関係にある物質のことです。ほとんどのアミノ酸にはL体とD体の鏡像異性体が存在します。そして例えばアミノ酸の一種であるグルタミン酸では、L-グルタミン酸は旨味を持つ一方でD-グルタミン酸にはほとんど旨味がないなどの性質の違いがあります。化学物質によっては、L体とD体では味や旨味が違うだけではなく、異なる生理活性を持つことがあり、片方が有害な場合もあります。そうした性質を研究することで食品の旨味を引き出したり、健康への悪影響を防げたりする可能性があります。
地域に根差した食育実践活動
実践女子大に赴任した直後から、「それぞれの専門性を活かして、地域貢献をしてほしい」という当時の飯塚幸子学長の方針を受け、保育園や小中学校、高齢者施設などを訪問する活動を始めました。以来、20年以上にわたり、日野や学祖下田歌子先生の故郷の恵那市などとの連携を深めながら食育実践活動に取り組んできました。
地域の農家や市民、学校との協力関係も築かれ、日野市産の野菜や果物を使った「地産地消活動」や「子どものための料理教室」や「食育イベント」も実施しています。たとえば「日野産大豆プロジェクト」では、安全・安心な大豆を地元で栽培し、学校給食を通して子どもたちに提供することを目的に、日野市・農家・学校関係者・学生が一体となって取り組みました。現在は市民の有志によって活動が継続されています。また、日野市教育委員会や中学校の栄養士の方々と連携し、「テーブルマナー教室」も開催しています。魚を丸ごと1尾使った和食を給食に取り入れ、生徒たちが正しい箸の持ち方や魚のきれいな食べ方などを学ぶ機会となっています。本学の学生は、給食の配膳の支援をおこなっています。
「食」は誰しもの身近なテーマであり、その課題解決を授業の中だけではなく、実際に地域の方々にダイレクトにアプローチできる環境があることは大きなやりがいを感じています。今後、学生たちが、地域の食や健康のリーダーとなって、次世代につないでいくことを願っています。
学生とともに成長する喜び
学生を指導する際に心がけているのが、学生自らが考えて、興味を持って、深く知りたいと思ってくれるように導くことです。興味の対象は、何でもいいのです。例えば「魚が大好き」ということで魚に含まれる成分を分析したり、「干し芋が好き!」でサツマイモの蒸し時間によって糖の成分がどう変化するかを分析したり、農業と食の関係に興味を持って農家の方の意識調査をしたりと、多様なテーマに挑戦する学生がいます。彼女らは、その研究を通じて知識を深め、栄養士や関連機関へと羽ばたいていきます。最近では、卒業生から就職先とのコラボで食育プロジェクトのお誘いを受けることもあり、学生の成長を実感できる瞬間です。興味を持って自主的に学び成長していく学生の姿を見ることは、教員としての大きな喜びです。
一方で、学生の発想から私自身が新たな気づきを得ることもあります。若い世代の柔軟な視点に触れることで学べることもたくさんあります。学生の成長を見ながら、自分も成長できる。これが、研究と教育、両方に携わる大学教員ならではのよさだと思っています。







