チャイコフスキー交響曲第5番
夜は寒気が足元を凍えさせる季節になり、1年も本当にわずかになりました。そんな今回は秋にてご紹介した「仮面舞踏会」に続き、交響曲を紹介したいと思います。
交響曲はクラシックのメインディッシュ。作曲家たちの人生がかけられた魂の結晶は、カロリーも高く、普通に長い。今回ご紹介するチャイコフスキー交響曲第5番も45分程度あり、楽章ごとに説明すると長い。そして「聞いてみよう」の入り口すら入れなくなってしまうので、普通の曲(3~4分)を聞くくらいの長さのフレーズだけを切り取って、かつ、この楽章の一番美味しいところを読んでいただきたいと思います。
「運命への勝利」
第一楽章の冒頭。クラリネットの奥深い響きからはじまる1つの主題が、全ての楽章に登場しこの楽曲を象徴する旋律となっている。表題だけ取り上げれば暗い印象を受けるが、現代人にとってはパワフルで活気のある人気の交響曲である。
チャイコフスキーが得意とする感情的で悲哀なメロディーが登場するのは、第2楽章である。
[Andante cantabile,con alcuna licenza]少し自由に、歩くような速さで歌うように
この楽章は弦楽器の慟哭するような前奏からはじまる。序奏に続くホルンによるソロは、下降型の3つの音から奏でられる。(画像参照)このフレーズが反転したり繰り返されたりしながら、全体としては上昇の波を作る。切なくも甘やかで感傷的、と同時に、胸の内に秘めた情熱の悲痛な叫びのような、魂を揺さぶる旋律が聞く人に強く印象づける。
「慰め、ひとすじの光……いや、希望はない」
初期構想にてチャイコフスキーは、運命に対して「希望」を提示することはなかった。しかし、その後のフレーズに重なるように始まるクラリネットのによるソロは3つの音を重ねてホルンのエコーのように歌われる。寄り添い、融け合い、影のように、クラリネットとの掛け合いが続く。
[Con moto]活気のあるように
24小節目。上昇形の3つの音が二回繰り返され、オーボエが登場する。このソロは今までのホルンの感傷的な切迫感のある空間から、光をさすように歌われる。
ホルンとクラリネットの掛け合いに対して、今度はオーボエがホルンを導くように、animatoとなった26小節において、2連符の上昇フレーズで高らかに「希望」を掲げる。
オーボエが歌った後、ホルンも追いかけて歌う。これは、これまでのホルンによる悲哀を含んだ歌とは脈拍の異なった歌となっている。
希望を描くことを諦めていれば、ここでオーボエのソロが楽譜に登場することは無かった。このオーボエメロディーこそ、本楽章を彩るチャイコフスキーの旋律美が聞く人の胸を打つ歌だと感じる。
ペンネーム:さくらんぼ







