初見 康行 准教授 「人材開発論」
ベスト・ティーチング賞を受賞して

このたび、2025年度ベスト・ティーチング賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。日頃の授業で大切にしてきたことを、このような形で評価していただけたことを、心よりうれしく感じています。
受賞対象となった「人材開発論」は、「企業は人をどのように育てるのか」を学ぶ、人間社会学部の専門科目です。OJT・Off-JT・自己啓発といった人材育成の基本的な手法から、経験学習や組織社会化などの理論、コーチング、組織開発、実際の企業事例まで、企業における「人材育成」を体系的に学んでいきます。
社会に出る前だからこそ、当事者として学ぶ
学生にとって、人材開発というテーマは、一見すると「まだ働いたことがないから分からない」ものに思えるかもしれません。しかし、見方を変えれば、これから社会に出ていく学生こそ、「自分はどのような会社で、どのように成長していきたいか」を考える当事者です。
授業では、人材育成に関する知識を、単なる試験のための知識で終わらせず、企業を見るための視点へと変えていくことを大切にしています。企業が人材をどのように捉え、どのような成長の機会を用意しているのかを理解することは、就職活動における企業選びだけでなく、入社後のキャリアを考えるうえでも重要だからです。
私は本学に着任する前、民間企業で法人営業や人事の業務に携わってきました。その経験を生かし、授業では常に、「理論」と「実践」の架け橋をつくることを心がけています。
抽象的に見える理論も、実際の企業の取り組みや職場でのエピソードと結びつけることで、学生にとって身近な問題になります。また、今年は企業の第一線で活躍する実務家の方をゲスト講師としてお招きし、教室での学びと実社会とをつなぐ機会も設けています。
集中と理解を支える「学びのリズム」を設計する
授業運営の面で意識しているのは、学生が100分間集中し続けられることを当然の前提にしないことです。座学中心の講義に長時間集中し続けることは、大人にとっても簡単ではありません。
そこで、授業を一方向に進め続けるのではなく、話を聞く時間、自分で考える時間、他者に説明する時間、前回の内容を振り返る時間などを組み合わせ、学びに一定の「リズム」をつくることを心がけています。
具体的には、講義冒頭の約15分を、ペアワークと前回の復習にあてています。ペアワークでは、前回の講義内容の要点や、自分が学んだこと、疑問に感じたことなどを整理し、一人1分程度で隣の学生に説明してもらいます。
他者に内容を説明するためには、学んだことを自分なりに咀嚼し、順序立てて言葉にしなければなりません。聞いた内容をそのまま記憶するだけでなく、学びを「自分の言葉」に置き換える機会にしたいと考えています。
その後、前回のスライドを使って10分ほど復習を行います。学生にも問いかけながら振り返ることで、授業を双方向的にするとともに、前回欠席した学生の理解を補うことにもつなげています。いきなり新しい内容に入るのではなく、前回までの学びを確認しながら、授業を緩やかに立ち上げていくための時間です。
また、授業開始から50分から1時間ほどを目安に、5分間のリフレッシュタイムを設けることがあります。休憩を取ること自体が目的ではありません。前半の内容をいったん整理し、気持ちを切り替えて、後半の学びに向かうための一つの授業設計です。
さらに、講義ではリアルタイムアンケートツールの「respon(レスポン)」を使用し、学生の意見や理解度を確認しながら講義を進めていきます。responでの問いかけは毎回1回から3回程度行い、履修者の多い授業でも、学生一人ひとりの考えを授業に反映できるようにしています。
ほかにも、講義テーマに関連する短い動画資料を取り入れるなど、同じ内容であっても、届け方によって学生の理解や集中のしやすさは変わり得るという考えのもと、小さな工夫を積み重ねてきました。
学生の声から授業を学ぶ

こうした取り組みは、学生の反応に支えられ、また、学生の声によって少しずつ磨かれてきました。
授業アンケートでは、
「授業内で休憩を挟むことで、より集中して取り組むことができた」
「前回の内容を自分でまとめて話すことで、整理し、振り返る思考が身についた」
といった声が寄せられました。授業に取り入れてきた工夫が、学生自身の言葉で語られていることを、何よりうれしく感じています。
さらに、
「企業選びの目を養うことができた」
「学んだことを就職活動にも、その後の会社での働き方にも生かしたい」
「自分のキャリアを考えるきっかけになった」
という感想もいただきました。
人材開発に関する知識が、学生一人ひとりの「これから」につながる学びとして受け取られていることは、この授業が目指してきたことそのものであり、担当者として大きな励みになっています。
受賞を新たな出発点として
今回の受賞を受け、授業で実践してきた工夫を、学内のFD研修でも共有させていただく機会をいただきました。
教育の方法に完成形はありません。私自身も、学生の反応を見ながら、毎回試行錯誤を続けています。今回の受賞を到達点とするのではなく、これからの授業改善に向けた新たな出発点として受け止めています。
今後も学生の声に耳を傾けながら、理論と実践の架け橋となる授業、そして、学生が自らのキャリアを前向きに描くきっかけとなる授業を目指して、改善を重ねてまいります。
末筆になりますが、日頃より授業運営を支えてくださっている学科・学部の先生方、教職員の皆様、ゲスト講師としてご協力くださっている実務家の皆様、そして何より、毎回の授業に真剣に、また楽しみながら参加してくれている学生の皆さんに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。







