内藤将俊教授 「建築デザイン研究室での取り組み」
ベスト・ティーチング賞を受賞して

2021年に生活環境(環境デザイン)学科・建築デザイン研究室に着任して以来、社会へと力強く羽ばたいていくゼミ生を4度見送ってきました。そのほぼ全員が卒業設計に必死に取り組み、全ての年で複数作品が各種卒業設計コンクールにおいて素晴らしい賞を獲得し続けることができました。合計で12の受賞を重ねたその取り組みや、例年日野市の後援を受けて開催する「光の庭」での地域貢献活動等に対して、受賞させていただきました。
着任当初は驚きの連続でした。それまで自身で経営する建築設計事務所での活動と工学部建築学科での教育に専念してきた私は、初の生活環境学科での教育にコロナ禍が重なり、不安を感じていました。しかし、すぐにそれが杞憂であることを教えてくれたのです。設計の知識や技術を少し伝えただけで、背中を少し押しただけで、スポンジが水を吸収するかのごとく自分のものにし、信じられない速度で歩き始めました。しかも、デザイン系の大学で頻繁に見受けられる「友人=ライバル」といった関係性が殆ど生じず、仲間同士でワイワイと楽しそうに協力していました。さらに驚かされたことは、彼女たちの持久力です。とにかくコツコツと案をブラッシュアップし続け、1年後には想定をはるかに超えるレベルの作品が幾つも並んでいました。その積み重ねが、本研究室の最大の特徴である「配属決定後の2年生から4年生までの全員が‘居場所(研究室)’に連日来て勉強し、知識や経験を後輩へと伝える環境」の礎となっていきました。プロや大学院生として立派に各地で頑張っている現在でも頻繁に集まったり、多くの後輩たちをコンクールに誘いだして、日本のトップが終結する世界を経験させてくれたりしています。本学での教育方法を教えてくれた彼女たちには感謝してもしきれないほどです。

受賞の有無に関わらず、創造性が高い全ての作品を鮮明に記憶しています。その中でも2021年度の卒業生の作品である「イヤホンで紡ぎ出す~歩みと共に広がる空間~」は特徴的な建築でした。これは、スマフォで音楽を聴きながらの生活が当たり前となった世代を対象として、保育園や老人ホーム、図書館などを含む複合施設内の多様な場で生じる音情報をイヤホンでコントロールしながら生活するといった考えに依拠したものです。そして、各々の利用者の使いたい空間の組み合わせが柔軟に変化する、いわば建築の大きさが変化するといった、まさに未来の複合施設の在り方を提案した意欲的な作品です。結果的に「第45回学生設計優秀作品展(通称レモン展)」での「レモン賞」と埼玉建築設計監理協会主催の「第22回卒業設計コンクール」でのダブル受賞という本学初の快挙を成し遂げてくれました。
次年度には、「第23回卒業設計コンクール」において、最優秀賞に相当する「埼玉県知事賞」とそれに次ぐ「準賞」を二人のゼミ生で分け合ってくれました。受賞後にテレビ取材を受けたり、後日に予定されている知事プレゼンテーションの調整をしたりと、慌ただしく動いている二人をとても頼もしく感じました。また、投票で最も高い評価を獲得した二つの番号が読み上げられた後に、本学の2名が会場の皆さんの前に立ち並んだ瞬間のざわついた会場の雰囲気がとても強く印象に残っています。
「第23回卒業設計コンクール・埼玉県知事賞(最優秀賞)」の様子
「第23回卒業設計コンクール・準賞」の様子
「第23回卒業設計コンクール・埼玉県知事賞(最優秀賞)」の発表の様子
さらに、建築系学科を有するほぼ全ての在京大学から代表作品が集結した「第33回JIA東京都卒業設計コンクール2024」では、2023年度卒業生作品の「線状空間からの立体空間構成方法」が、審査委員長による「藤本賞」を獲得し、都代表として全国大会へ駒を進めてくれました。本作品は、28Km のサイクリングロードをまるで毛糸を丸めるかの如く一塊の絡み合う複雑な立体へと変換した、創造性が非常に高く、また、極めて論理的な作品となっています。受賞翌日の撤収開始直前まで、多くの他大学の学生がこの案を食い入るように見つめ、必死に読み解こうとしていた光景が昨日のように思い出されます。
「第33回JIA東京都卒業設計コンクール2024・藤本賞」受賞作品
「第33回JIA東京都卒業設計コンクール2024・藤本賞」受賞後の多くの来場者が集まる様子
また、昨年度の卒業生が、「第25回卒業設計コンクール」に加え、700案以上の応募があった「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」で100選に入り、さらに、来場者投票で3位を獲得したり、1200案以上の応募があった「赤れんが卒業設計展」でも本戦に進んだりと、研究室の新たな扉を次々と開け、見事に後輩達へとバトンを繋いでくれました。
「第25回卒業設計コンクール・せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦・赤れんが卒業設計展」出展作品
「第25回卒業設計コンクール」知事プレゼンの様子
最近では、濃密な学部の活動が安定してきたことで、多くのゼミ生が大学院に残りたいと、ごく自然な形で伝えてくれるようになってきました。その期待に少しでもそえるよう、今回の受賞を励みに先進的な教育の充実を目指して尽力してまいりたいと強く感じております。
末筆になりますが、常日頃研究室での活発な設計活動や「光の庭」を支えて下さっている学科の先生方をはじめとする教職員の皆様、日野市の皆様にこの場をお借りして心から感謝申し上げます。