篠﨑 香織先生
一歩前へ!
篠﨑 香織(SHINOZAKI Kaori)/ビジネス社会学科
早稲田大学社会科学部卒業
早稲田大学社会科学研究科修了
北陸先端科学技術大学院大学修了(博士 知識科学)
【夢ナビ2018 企業の境界が変わる?M&Aが生む効果とは】https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g009207#
Q1. 先生の研究分野は何ですか。その研究を始めたきっかけは何ですか
研究分野は、経営戦略や研究開発マネジメントです。
企業は成長を目指して外部環境と自社の状況を勘案して戦略を決めます。その選択肢の1つにM&Aがありますが、実施すれば成長できるというわけではありません。被M&A主体の資源を自社の強みにのせて活用していく能力が求められます。しかし、この能力についてはまだわかっていないことが多く、具体的にどのようなもので、どのように形成されるのかを研究しています。
「1つ1つの積み重ねがやがて大きな力になる」ということを体現している企業に出会ったのが研究を始めるきっかけになっています。
Q2. 先生が担当されている授業の中で、学科を決める1年生やゼミを決める2年生におススメの授業は何ですか
1年生:必修の「経営学概論」・・・企業の仕組みや機能を学ぶことに加え、面白い取り組みをしている企業を取り上げ、履修生と何がどうすごいのかを考えていきます。これらを通して、組織の活動を通して人を笑顔にする「ビジネスの視点」を養います。組織の活動を通して人を笑顔にすることに興味がある方は、ぜひ「ビジネス社会学科」へ!
2年生:「社会システム論」・・・私たちの身近にあるテーマから、社会システムとは何かを考え理解するところからはじめ、自分たちで社会システムを創る、そして維持するというところまでをフィールドワークも取り入れながら行います。まずはこの授業を履修して、みて、社会システムって興味のある枠組みだわとなれば、ぜひ「篠﨑ゼミ」へ!!
Q3. 先生のゼミはどのような活動をしていますか。どんな雰囲気ですか
3年前期はテキストの輪読、後期は一人1コマゼミを仕切る「ゼミ仕切り」と卒業研究のテーマ決め、4年は卒業研究が主な活動です。3年次は、課題発見→解決に向けたビジネスコンペティションに参加します。一人ひとりが自分の関心のあることを調べて問題提起し、仲間と意見交換を行い、知識を増やすとともに、人前で筋の通った話ができる力を養います。
ゼミ全体で行う活動と、興味がある人が参加する活動があり、後者の活動として今年度は、「誰もが働きやすい社会について考える」というテーマから、障がい者雇用に関する研究を行いました。
学生がやりたいようにやりやすいゼミです。
Q4. 先生のゼミでは、どのような卒業論文のテーマがありますか
卒業論文のテーマは、各自のこれまでの学びと興味とで決まっていきます。一例をあげると、1.プリキュアから考える女児向けアニメの経営戦略、2.DX推進のための中小企業とSIerとの連携、3.中国のライブコマースの分析 -女子学生に向けたライブコマースの提案-、4.障害を持つ労働者の職場定着要因の検討 -特例子会社の事例から-、です。文献レビューを行い、インタビューやアンケートを実施し自分でデータを取集し分析する、あるいは既存のデータ(二次データ)を収集しまとめるといった方法で研究を進めます。
Q5. 先生の大学時代の楽しかった思い出は何ですか
サークルやゼミの仲間と大盛りパフェをよく食べに行きました。とにかくよく食べ、よく話し、色々な物事の捉え方に触れました。
Q6. 受験生に人間社会学部に入学したら、どのような学生になってほしいですか
ここぞというときに「一歩前」に出られる、あなたならでは力を養って欲しいです。
東洋製罐株式会社との連携で、受験生の悩みに応える「Can詰め」を企画
9月17日(日)に渋谷キャンパスで実施されたオープンキャンパスで、『赤本缶』を自動販売機で配布しました。『赤本缶』は、人間社会学部の1年生を対象とした昨年度の「演習Ⅰ」の授業の中で、学生に課題発見からプレゼンテーションまで一貫して体験してもらうことを目的として実施した「Can詰めの未来を拓くプロジェクト 2022」の成果物です。今回は、容器4大素材を製造する世界有数の総合容器メーカーである東洋製罐の協力のもと、誰もが経験した「受験生」としての悩みを解消するためのCan詰めを、4、5人編成のグループに分かれて企画してもらいました。
授業の最後に行われたプレゼンテーション大会では、履修学生、東洋製罐の社員の方々、本学職員で厳正なる審査を実施。その結果、金津謙専任講師の担当クラスから、勉強疲れの癒しになるよう、ビーズと小型時計をワイヤーに通して製作する材料を詰めた『ビーズウォッチ缶』、私が担当するクラスからは、教学社から出版されている大学入試の問題集、いわゆる「赤本」の一部の問題を缶に詰める『赤本缶』が高評価を得ました。持ち歩くのには重い「赤本」から試験一回分を印刷した用紙を缶に詰めて、持ち運びも、解答、採点もしやすくして受験生の勉強へのハードルを下げるというのが『赤本缶』のコンセプト。「同じ悩みを経験した学生ならではの目線が良い」「意外な発想が面白い」と好評で、『ビーズウォッチ缶』ともども実物作製へと進むこととなりました。しかし、ここから『赤本缶』の配布までの道のりは困難を極めました。
学生の想いをかたちにしたい、その一心で突き進んだ『赤本缶』配布までの道のり
東洋製罐社との連携を企画したのは、これまで世の中のさまざまなモノを包み込んできた会社なら、きっと学生たちの思いも包んでくれるだろうと考えたからです。思い切って東洋製罐社に企画書を送ってみたところ、業務管理グループに快くご協力いただけることになりました。しかし、『赤本缶』の実物作製段階に入ると、数々の難題と対峙することになりました。
まず、複写許諾の問題です。赤本の国語と英語の一回分の問題を縮小コピーして缶に詰めることを想定し、赤本の出版元である教学社に複製の許可をいただこうとしたところ、問題として使われているそれぞれの作品に対して複写許諾を取る必要があることがわかりました。作品の筆者は、著名な哲学者に国文学者、海外の研究者、そして、故人で、それぞれの作品を掲載している書籍の版元に当たればいいのか、アプローチ先の検討から始めなければなりませんでした。複写許諾の手続きには時間がかかると言われており、オープンキャンパスまでに間に合うのだろうか、また、一作品でも複写の許諾が得られなければ、赤本缶の実物化は水泡に帰す、その焦りと不安は、国語の問題の許諾が得られた後も続きました。海外にいる研究者とその著作の版元とは、なかなか連絡がとれず、途方に暮れることもありました。それでも、学生の頑張りと、赤本缶のコンセプトの面白さを理解してもらえれば、可能性はあるのではないかと考え、「赤本とは?」の説明から始まり、このプロジェクトの趣旨をまとめたプレゼンテーションシートを作成し、著者と出版社に送ることにしました。その後、双方と連絡がとれ、出版社から許諾を得ることができました。
一方で、当初より『赤本缶』を自動販売機で配布したいという希望があり、ダイドードリンコ株式会社にアプローチはしていましたが、赤本缶を自動販売機から搬出する話し合いが本格的にできたのは7月になってからでした。当たり前ですが、赤本缶の搬出はダイドードリンコ社にとっても初めてのことなので、対応できる自動販売機の選定から、自動販売機の確保、赤本缶のサイズと重さの点で自動販売機からの搬出に耐えられるのかのテストなど、ここでも課題が山積みでした。しかし、普段では考えられないスピードで対応してくださって、配布予定のオープンキャンパス前の導入にこぎ着けました。
ほかにも実践女子学園の関連企業として教育事業をサポートする実践楷企画株式会社や丸善株式会社、本学の職員など非常に多くの方々にご協力をいただきました。そのおかげで自動販売機での『赤本缶』配布が実現し、『赤本缶』を手にした受験生から「学生のアイデアが実物化するとはすごい」「発想が面白い」「気軽に赤本の問題に取り組めるのが良い」「学生自身でデザインしたパッケージもかわいい」といった感想を聞くことができました。同伴の保護者の方からは「来場者を楽しませる良い企画」「伝統のある実践女子大学だからこそ企業との連携が実現しているのだと思う」といったお声も。すべては、ご協力いただいた皆さんと、最後まで頑張ってくれた学生たちのおかげです。
「人を動かす」のは共感と理解。「社会で人を育てる」という共通認識も再確認
私の専門は経営学で、企業のM&Aに関する研究や、産業集積に関する研究に取り組んでいます。授業では、「経営学概論」や「イノベーション論」などを担当しており、企業が成長するためには何が必要かを教えています。
企業の成長に欠かせないのは、ありたい姿と現状のギャップを把握し、それを、ヒト、モノ、カネ、情報を使ってどのように埋めるのかという戦略です。加えて、組織に属する一人ひとりの能力を最大限発揮してもらうこと、つまり人をうまく動かす力も求められます。今回のプロジェクトでは、関わるすべての方々がそれぞれのミッションを達成しようと汗をかいてくださったおかげで、私が授業で学生に伝えようとしていたことが具現化されるかたちとなりました。
では、なぜ皆さんがここまで動いてくださったのか。その一番の要因は「学生のアイデアをかたちにする」というプロジェクトの目的に共感していただけことにあると思っています。そのために、何としてもやり遂げたいという意思を周りに伝えていくのが私の役割でした。海外の出版社に宛てたプレゼンシートもその一つですが、とにかくこちらの想いを知ってもらう、そのためにはとにかく一歩踏み出す必要がありました。
さらには、こちらの思いを伝えるだけでなく、相手の立場を理解しようとする姿勢も忘れてはなりません。「組織は人なり」とよく言いますが、その人(企業)が何を持っていて何を得意としているのか、それを見定め、引き出していくことが肝要です。たとえば、東洋製罐社には「あらゆるものを包める」、ダイドードリンコ社には「飲料以外も搬出できる」という強みがあります。それを認識した上で、だからこそ力を貸して欲しいのだと連携を求めました。
なお、今回の取り組みを通して「社会で人を育てる」という意識が、学内はもとより国内外に共通してあることを確認できました。これは、非常に嬉しかったです。
学生たちの一歩踏み出す勇気を受け止めながら、「共創」を体現する人材を育成
私が悪戦苦闘するかたわらで、学生たちも大いに奮闘してくれました。「Can詰めの未来を拓くプロジェクト 2022」のチーム編成はまったくのランダムで、チームのメンバーは「はじめまして」からのスタートでした。それでも、話し合いを繰り返す中で互いの特性を理解し、フォローし合っていました。まさに「組織は人なり」を実践していたと思います。
また、AIの普及が進むこれからの時代、AIに頼ることと、人間である私たちがすべきことは何か、それを理解することが大事だと学生たちに知ってもらいたいと考えてきましたが、今回のプロジェクトを通して少なからず伝えられたのではないかと感じています。この手応えを大切に、今後もプラッシュアップした取り組みを継続していきます。
2024年度、「現代社会学科」は「ビジネス社会学科」と名称が変わります。「ビジネス」というとお金もうけや起業などを想像する方もいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスは「人」なくして成り立つものではありません。誰かを笑顔にすることを追求することこそがビジネス。「共創」できる人材を育成すべく、学生たちの一歩踏み出す勇気を受け止められる体制作りをより一層強化していきたいと考えています。
また、不確実性の高い社会を生き抜くためには「自分のお財布を持つ」、つまりは自分の足で立つ意識も重要です。どんな状況においても何とかなると思える強い心と、自分で自分を支える力が身につくよう、今後も学生たちを精いっぱいサポートしていきます。「現代社会学科」から「ビジネス社会学科」への進化にも、どうぞご期待ください。
赤本缶チームの学生のコメント
最初はおぼろげだったアイデアを具体的な形にする過程では、たくさんの壁を突破しなければなりませんでした。缶に収まる中身の作成、缶への詰め作業、コスト、著作権等々。挑戦と失敗を繰り返しながら、「実現可能性」に向き合いました。想像以上に労力のかかる作業でしたが、商品開発がどのように行われるかを体験させてもらい大変勉強になりました。一方で、「実現可能性」よりも「あったらいいな」を優先したことで多くの方々に評価していただけた部分もあり、「あったらいいな」という素直なアイデから生まれるものもあると知りました。授業内で発表するだけだと思って取り組んでいたものがさまざまな方々の手を借りて形になり、少し不思議な気持ちではありますがとても誇らしく感じています。
こうして赤本缶が形になったのは、篠﨑先生の熱意があったからこそだと思います。顔も知らない人に問い合わせをするという行為は学生にとってハードルが高いものですが、各所に交渉する篠﨑先生のフットワークの軽さには驚かされました。そんな篠﨑先生と私たちのおもいに応えてくださった東洋製罐さま、ダイドードリンコさまをはじめとする関係者の皆さまには感謝申し上げます。
今後はこの貴重な経験を活かして、誰かのために尽力できる人間に成長していきたいと考えています。